倫理・コンプライアンス・透明性 ― ClinicalTrials.gov/UMIN登録が必要な研究と記載法―
近年、医学研究においては、研究開始前の登録(registration)だけでなく、研究結果をどのような形式で、どこまで透明に報告するかが厳しく問われています。
その中心となるのが、EQUATOR Network が提供する各種報告ガイドラインです。どの研究でどの指針を使うのか、チェックリストをどう扱えばよいのかといった実務的ポイントを、実際の投稿トラブル例を交えて解説します。
EQUATOR指針とは何か
• EQUATOR = Enhancing the QUAlity and Transparency Of health Research
• 目的は、(1) 報告の抜け・曖昧さを防ぐ (2) 再現性・検証可能性を高めること
• 「査読対策」ではなく、研究の信頼性そのものを支える枠組み
どの研究で、どの指針を参照すべきか
主要なEQUATOR指針と対象研究
| 研究デザイン | 指針 |
|---|---|
| ランダム化比較試験 | CONSORT |
| 観察研究(コホート・症例対照・横断) | STROBE |
| 症例報告 | CARE |
| システマティックレビュー/メタ解析 | PRISMA |
よくある誤解
• 「介入がある=必ずCONSORT」ではない
• 「症例が複数=STROBE」でもない
研究デザインを正しく定義することが必要です。
チェックリストは「後から埋めるもの」ではない
多くの投稿トラブルは、原稿完成後にチェックリストを“形式的に”埋めることから生じます。
実践的な使い方
• 研究計画段階/解析前にチェックリストを一度読む
• 原稿作成時に
o 「Methodsに書くべきこと」
o 「Resultsで必須の情報」
を確認しながら執筆
チェックリストは「提出書類」ではなく、執筆ナビゲーションで、研究の質を高めるための設計図
チェックリストの添付方法と注意点
① チェックリストの入手先に注意する
• STROBE や CONSORT などのチェックリストは、一見すると複数のサイトからダウンロードできるように見えますが、公式配布元と二次配布サイトが混在しています
• 投稿規定にURLが明記されている場合 → そのURLから指定形式のチェックリストを使用
• 明記がない場合→ EQUATOR Network 経由の最新版を使用
特に、大学や研究支援サイト等で配布されているファイルは、最新版でない場合や派生版と混同されている場合があるため注意が必要です。
② 研究内容に合った「指針の版」を選択する
STROBE には通常版のほかに、
• STROBE-nut(栄養疫学)
• STROBE-ME(分子疫学)
などの派生指針が存在します。
投稿規定では単に「STROBEに従う」と記載されていることも多いため、自身の研究デザイン・分野に合った版を選択しているかを著者側で確認する必要があります。
③ 添付形式と記載方法の基本
多くの雑誌では、チェックリストを
• PDF または Word 形式で提出
• 各項目に
o 該当する本文ページ番号
o または「該当なし(理由を簡潔に記載)」
することが求められます。
④ よくある不備と編集部からの指摘例
• 雑誌指定フォーマットではなく公式版を使用している
• 古いチェックリストを提出している
• 研究デザインと合わない指針(例:STROBE対象研究で CONSORT)
• “Not applicable” の理由が記載されていない
これらはすべて、
研究の質ではなく「提出書類の不整合」によるトラブルです。
投稿トラブル事例
EQUATOR指針に関連する投稿トラブルの多くは、研究内容そのものではなく、チェックリストの扱い方に起因しています。以下は、実際によく見られる事例です。
事例①:STROBE対象研究で CONSORT を添付
観察研究(後ろ向きコホート)にもかかわらず、
「介入が含まれているように見える」という理由で CONSORT を提出。
事例②:雑誌指定URLではなく別サイトのSTROBEを使用
投稿規定に STROBE チェックリストのURLが明記されていたが、
過去に使用した別サイトのファイルを流用。
事例③:STROBE-nutを使うべき研究で通常版を提出
食事調査を含む栄養疫学研究で、
通常版 STROBE を使用してチェックリストを作成。
事例④:チェックリストと本文の不整合
• チェックリストでは「Methods p.5」と記載
• 実際の記載は p.6–7 に移動していた
まとめ
EQUATOR指針は、単に投稿時に求められる形式的な要件ではなく、研究をどのような構造で、どこまで具体的に報告すべきかを示す設計図として位置づけられます。適切な指針を選択し、それに沿って研究計画や原稿作成を進めることで、重要な情報の記載漏れや曖昧な表現を防ぐことができ、研究の透明性と再現性を高めることにつながります。
また、チェックリストを原稿完成後の「提出書類」として扱うのではなく、研究の早い段階から参照しておくことで、投稿後に指摘されやすい形式的な修正を最小限に抑えることが可能になります。その結果、修正回数の削減や査読対応の効率化が期待でき、研究内容そのものに集中した建設的な査読プロセスにつなげることができます。






