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看護における量的研究の意義と未来

看護分野における量的研究は、看護実践の質を高め、科学的根拠に基づく看護(Evidence Based Nursing:EBN)を確立するために不可欠なアプローチです。本記事では、量的研究の重要性や基本的な手法、国際ジャーナルに投稿する際の注意点や倫理的配慮などを解説します。

看護における量的研究の重要性

量的研究とは、観察対象となる現象や事象を変数として数量化し、統計学的な分析手法を用いて、あらかじめ設定した仮説を実証的に検討するアプローチです。現象間の因果関係を解明したり、実態を客観的に把握したりするほか、得られた結果を他の集団にも広く適用できるかという「一般化可能性(外的妥当性)」を追求することが目的です。質的研究では個人の深い経験を探求し新たな理論を生成する「帰納法」を用いるのに対し、量的研究はデータをもって仮説を検証する「演繹法」を用います。※1、2

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看護実践における量的研究の役割

量的研究の主な役割は以下の通りです。※1

● 集団の傾向や特性などの実態の把握(全数調査、標本調査など)
● 因果関係の推論(演繹的仮説、・帰納的仮説による分類)
● 集団や変数の類型化(クラスター分析、潜在クラス分析など)
● 看護実践の個人要因や環境要因との関連性

これらを通して、量的研究は科学的根拠に基づく看護(EBN)を推進します。EBNとは、研究で得られた最良のエビデンス、患者の経験や希望、専門家の意見などを総合し、臨床における意思決定を共有するプロセスを指します。※3

新しい治療法や看護ケア手法の有効性は、初期の探索的研究を経たのち、最終的にランダム化比較試験(RCT)などの検証的研究によって決定づけられます。つまり、量的研究は看護職の経験則や直感のみに頼らない看護実践やケアの質向上のために欠かせない存在といえます。※1

量的研究の基本的な手法

量的研究では、検証したい研究疑問の性質に応じて、最適な研究デザインとデータ収集方法を選択する必要があります。量的研究の手法と対象者の抽出の仕方について解説します。

データ収集方法の種類

研究デザイン 概要と特徴 該当する主な手法
実験研究 要因(独立変数)を意図的に操作(介入)し、その他の交絡要因を厳密にコントロールして因果関係を検証する手法 ランダム化比較試験(RCT)
準実験研究 臨床現場の制約上、完全な無作為化や厳密な統制群の設置が困難な場合に、要件を一部緩和して介入効果を評価する手法 非ランダム化比較試験、前後比較試験
相関的・観察研究 介入を行わず、ありのままの現象を観察し、変数間の関連性や健康障害の原因と結果を遡及的または前向きに明らかにする手法 コホート研究、症例対照研究、横断研究
記述的調査研究 特定の集団における現象の実態を量的に把握するための手法
ニーズ・アセスメントなどにも用いられる
質問紙調査(アンケート)、構造化面接
方法論的研究 研究対象を測定するための尺度や研究用具自体の開発、妥当性・信頼性の検証を目的とする手法 構成概念妥当性の検証、尺度開発

サンプリングの重要性

対象者の抽出(サンプリング)は、量的研究の質を左右します。母集団の全数を調査する悉皆調査(全数調査)は通常困難なため、一部の「標本(サンプル)」を抽出して母集団の傾向を推測するのが一般的です。研究結果の一般化可能性を担保するには、偏りのない「無作為抽出」が理想とされ、事前に検定力分析を行い必要なサンプルサイズを算出することが求められます。

サンプリングにおいては、研究の信頼性を損なわないよう以下の3つを厳密に管理・統制する必要があります。※4

1.バイアス(サンプルの偏り)
対象者の選定に偏りがある「選択バイアス」や、データの測定時に生じる「情報バイアス」が挙げられます。研究計画の策定時に、防止策を講じる必要があります。

2.交絡
原因と結果の双方に関連し、見かけ上の因果関係を作り出してしまう第三の要因です。研究デザインの段階で集団の限定やマッチング、ランダム化をするほか、解析段階では層別解析や回帰モデルによって制御・補正することができます。

3.誤差
測定のたびに生じる偶然のばらつきに対処するには、症例数を増やすのが最も効果的です。信頼性の高い測定用具や誤差の少ない評価尺度を選択するほか、複数回測定して平均値を取る、測定方法を平準化するといった対策も有効です。

データ分析の手法

収集したデータを意味ある情報へ変換するプロセスを、データ分析といいます。量的研究における統計解析は、「記述統計」と「推測統計」の2段階で構成されます。※2、5

種類 概要 詳細
記述統計 収集したデータそのものの特徴や実態を要約し、可視化する手法 平均値、中央値といった代表値や、標準偏差などの散布度を算出し、データの分布や相関係数などを示します。図表やヒストグラムなども含まれます。対象群の背景情報を整理し、集団の実態を明確に把握するために不可欠なプロセスです。
推測統計 限られた標本から得られたデータを用い、母集団の特性や法則性を確率論的に推測する手法 設定した仮説が統計的に有意であるかどうかを判定する「仮説検定」、母集団の値を推定する「区間推定」などが含まれます。看護介入の効果を全体に一般化して適用するためには、推測統計による裏付けが必須となります。

主要な統計検定手法

量的研究における統計検定手法は、研究目的(差の検定、関連性の評価、類型化など)および変数の種類に応じて適切に選択する必要があります。看護研究でよく用いられる代表的な手法を解説します。※6

解析の種類 検定手法 概要
単変量解析 t検定 2群間の平均値に有意差があるかを検証する
分散分析(ANOVA) 3群以上のグループ間の平均値に有意差があるかを検証する
χ2(カイ2乗)検定 カテゴリーデータ(質的データ)の関連性・独立性を検証する
多変量解析 回帰分析 ある変数から別の変数を予測・説明するモデルを構築する
ロジスティック回帰分析 交絡要因を調整しながら因果関係の推論を深める

その他、多様な特性を持つ集団や変数のなかから類似性の高いものをグループ分けする「クラスター分析」や「因子分析」も、尺度開発や対象者の類型化に有効です。

近年、国際的な看護学ジャーナルでは統計解析の手法に関するエラーが指摘されています。分析ツールが高度化し容易に結果を出力できる現代こそ、研究者自身が背後にある数理的ロジックを深く理解することが求められます。

量的研究の結果の解釈と限界

量的研究によって導き出された統計学的な結果(p値や効果量)が、そのまま「臨床的な意義」に直結するわけではありません。研究者は、統計的な有意差が臨床の現場で患者にどのような実質的メリットをもたらすかを慎重に考察し、実践へ応用する必要があります。

また、量的研究には構造的な限界も存在します。データ収集方法や予算的制約により調査範囲が限定されやすく、100%の回収率を得ることは困難であるため、常に結果にバイアスが生じるリスクを内包しています。さらに、あらかじめ設定された質問紙の選択肢では、患者が経験している複雑な内面世界や多様な文脈のすべてをとらえきることはできません。※1

この限界を補うため、質的研究と組み合わせた「混合研究法」の重要性も高まっています。

国際ジャーナルに投稿する際の注意点

研究結果は、正確かつ透明性高く報告する必要があります。国際ジャーナルに投稿する場合は、研究の再現性と質を担保するために、研究デザインに応じた「報告ガイドライン」の厳格な遵守が求められます。代表的なガイドラインとして、ランダム化比較試験(RCT)向けの「CONSORT」、観察研究(コホート研究、症例対照研究、横断研究)向けの「STROBE」、システマティックレビュー向けの「PRISMA」などが挙げられます。※7

また、投稿する際はジャーナルの投稿規定を精読し、文字数制限や図表の形式を規定に準拠することが大切です。

量的研究における倫理的配慮

人間を対象とする看護研究においては、対象者の人権保護やプライバシーの保護などの倫理的配慮が欠かせません。質的研究・量的研究といった研究デザインや、データの収集・分析方法にかかわらず、また研究プロセスのいずれの段階においても、適切な倫理的配慮が求められます。公的ガイドラインを厳密に遵守し、研究実施前には所属機関の倫理審査委員会(IRB)から科学的妥当性と倫理的配慮に関する厳正な審査・承認を受けることが絶対条件です。

量的研究に参加する対象者には、目的や予測される負担、参加拒否による不利益が一切ないことなどをあらかじめ説明し、インフォームド・コンセントを取得します。研究への参加は対象者の完全な自由意志に基づく必要があります。例えば、質問紙調査においても同意の有無を問う欄を設け、対象者の意思を確認するプロセスが求められます。データの匿名化や研究終了後の確実な廃棄など、安全な管理体制の構築も研究者の重大な責務といえます。

関連記事:看護研究における倫理的配慮:インフォームド・コンセント、倫理審査委員会、記述例など

量的研究は看護の質の向上につながる重要なプロセス

看護研究における量的研究は、テクノロジーの進化により変革期を迎えています。ウェアラブルデバイスやAI(人工知能)をはじめとする情報通信技術(ICT)の進歩のおかげで、看護実践や臨床上の実態をより高解像度に把握できるようになりつつあります。一方で、分析ツールが高度化するほど、結果の妥当性を批判的に吟味する「研究者の眼」と統計リテラシーがますます重要になります。国際ジャーナルの厳しい要件に対応し、論文の質を高めるためにも、研究倫理やガイドラインを遵守しながら透明性と再現性の高いエビデンスを心がけましょう。

参考資料

※1 竹本 与志人. (2021) 社会福祉学における研究方法論を考える~量的研究と質的研究の背景にある考え方を探る~量的研究の考え方と進め方. 日本社会福祉学会第 69 回秋季大会 学会企画セッション.
※2 長谷川 智子. (2017) あなたにもできる看護研究:量的研究に取り組むための基本. 福井大学リポジトリ.
※3 西垣香織. (2021) 第4回多職種のための投稿論文書き方セミナー 看護研究の進め方を知ろう!(基礎編). 小児保健研究. 80(3). 377-381.
※4 柏原 康佑. (2015) NCNP-TMC 臨床研究実践講座ワークショップ 交絡、誤差、バイアス その対処法.
※5 佐藤 節郎. (2020)簡単な統計分析-分散分析を例として-. 芝草研究. 48(2). 137-141.
※6 大林 準. (2022) 統計検定手法の選び方-基本編-. 天理医学紀要. 25(1). 60-65.
※7 ManuSights. Reporting-checklist guide. Reporting Guidelines for Biomedical Research.