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オープンアクセスからオープンリサーチ、そしてオープンサイエンスへ

学術研究の成果としてまとめられた論文や書籍などを、オンライン上で誰もがアクセスできるように無料で公開する仕組みを「オープンアクセス(OA)」といいます。さらに、研究の成果だけでなく、データやプロトコル、コード、そしてオープン査読の内容に至るまで、研究プロセスの大部分を無料で公開する仕組みを「オープンリサーチ」といいます。

2000年代以降、シュプリンガー・ネイチャー社を筆頭に、学術出版業界ではOA出版を推進してきました。さらに、近年はデータやプロセスなどの研究過程も公開するオープンリサーチへの移行が進み、「オープンサイエンス」の理念が加速しています。

オープンリサーチに関する世界と日本の動き

研究の成果やデータをオンライン上で無料公開するオープンサイエンスの動きは、世界中で広がっています。欧州研究会議(European Research Council ; ERC)は2014年以降、公的資金を受けるすべての研究者に対し、査読済み出版物のOA化を義務付けています。カナダではさらに古く、医療分野は2008年から、他の分野は2015年から同様の条件が課されています。

日本においても同様の動きは活発化しています。科学技術振興機構(JST)は、2022年4月に「オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJSTの基本方針」を、2023年8月に同ガイドラインを改定しました。その中では、主に以下の2点が明記されています。

①すべての研究成果論文を対象とし、特に査読済みの論文(レビュー論文や会議論文を含む)は、原則として出版から12か月以内にOA化すること ②研究データをデータマネジメントプランに基づき適切に保存・管理すること、特に論文のエビデンスとなる研究データは原則として公開すること(ただし、公開にあたり特別な配慮を要するものは公開の対象外)

ただし、研究データの公開にあたっては、個別の事情に応じて公開までの猶予期間を設けることができます。また、二次利用のルールを明示することで、研究データの円滑な利活用を推進することが求められています。

BMCとシュプリンガー・ネイチャー社の取り組み

BioMed Central(BMC)は、商業的なOAを確立した先駆者であり、約25年にわたって医学・生物学分野におけるOA出版を推進してきました。2008年にシュプリンガー・ネイチャー社が買収された後も、オープンサイエンスにおいて重要な役割を担い続けています。

BMCはオープンリサーチの実践として、研究ノートやデータノート、研究プロトコル、査読付き事前登録研究論文など、多様な論文形式を導入し、研究の初期段階から成果を発信できる環境を整備してきました。これにより、研究の再現性を促進するほか、データの再利用を奨励し、研究効率の向上につながるとしています。

また、「透明性」を中核的な価値観とするBMCは、1999年からオープンピアレビューを導入し、論文が改善されていくプロセスを公開することで透明性のある査読も推進してきました。現在は、シュプリンガー・ネイチャー社が提供する査読プラットフォーム「Snapp」の活用により、編集者および査読者が査読する際に補足データにアクセスすることができるようになりました。これは、研究の公正性の強化や地域間のインフラ格差に対する配慮などにもつながります。

さらに、BMCは「研究者主導のオープンな研究エコシステムを構築すること」を掲げており、これからもオープンアクセスおよびオープンリサーチを先導するとしています。

シュプリンガー・ネイチャー社もまた、研究プロセスの透明化と再現性の確保を目指したオープンリサーチにも長年注力しており、現在のオープンサイエンスの流れをリードしてきました。約690誌のフルOAジャーナルと2,200誌以上のハイブリッドジャーナルを発行しており、各国の大学や研究機関との転換契約を通じて世界中のOA出版を牽引しています。

オープンリサーチにおける「FAIR原則」とは

対談記事のなかで、BMCはオープンリサーチへの取り組みとして「FAIR原則」について言及しています。「FAIR原則」は、研究データの発見と再利用を支援するための原則であり、2016年にScientific Data誌に掲載されました。

F=Findable(見つけられる)
A=Accessible(アクセスできる)
I=Interoperable(相互運用できる)
R=Reusable(再利用できる)

研究データを公開・共有する際は、この4つの原則に基づき、標準化されたメタデータを付与したり、DOIなどの永続的識別子を利用したりいて公共リポジトリに保存することが推奨されています。

参考文献

Springer Nature — Open science and open access
Springer Nature — Open access journals
早稲田大学図書館年報2021年3月号 — オープンリサーチの可能性
国立研究開発法人科学技術振興機構 — オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関するJSTの基本方針
国立研究開発法人科学技術振興機構 — オープンサイエンス促進に向けた研究成果の取扱いに関する JST の基本方針ガイドライン
Springer Nature — 【Springboard】オープンアクセスからオープンリサーチへ:25周年にわたるBMCの革新的な出版を祝して
Springer Nature — Open data The Future of FAIR

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