小規模な研究機関がNature Index正規化ランキングで世界上位に
それぞれの国や研究機関がどれほどの研究成果を上げているのかを評価するために、Nature Indexでは年間ランキングを毎年発表し、評価のための指標としています。2019年の年間ランキングにおいては、従来の評価方法に加えて、発表論文数及び著者数だけで評価するのではなく、各研究機関での発表論文全体における、レベルの高い論文の割合を考慮に入れた形で評価する、という指標を新たに導入しました。その結果、興味深い傾向が見えてきました。
研究機関の規模を考慮に入れランキングを正規化
従来の評価方法として用いられた、発表論文数と著者数のみに基づいて研究成果を研究機関ごとに評価する方法では、どうしても規模の大きい研究機関や、長い歴史を持つ研究機関ばかりがランキング上位を占めてしまい、小規模あるいは設立後間もない研究機関は、ランキングが下位になってしまうという偏りが生じてしまいがちです。そこで、今回の試みでは、Nature Indexが選定した82の著名な自然科学系学術ジャーナルに、2018年に発表された約6万の論文に基づき、通常の評価指標であるArticle count（AC：ある論文の中に、一人でも著者として名前を連ねていれば、その機関の発表論文1本としてカウントする評価指標）と、Fractional count（FC：ある論文の共著者全員におけるその機関所属の著者の割合で、最大値は1.0）の他に、研究機関の規模による補正を行った「Normalized FC（正規化FC）」という指標を、新たに導入しました。
正規化FCというのは、各研究機関のFCを、その年にその研究機関で発表した自然科学分野における総論文数で割る事によって得られる数値です。2019年の正規化FCについては、2018年1月1日から12月31日までのデータに基づいて、Nature Indexの通常ランキングにおける上位500の研究機関のFCを正規化することによって算出したものです。ちなみに、自然科学分野における総論文数に関しては、Dimensionsのプラットフォームで追跡して得られた情報に基づいたものとなります。
正規化ランキングで小規模研究機関も世界上位に
今回初めて用いられた正規化FC（以下、正規化ランキングと表現する）を全世界の研究機関で比較すると、Nature Indexにおける通常ランキングでは世界上位に入っていない小規模な研究機関が複数ランクインしているという、面白い傾向がみられていました。我が国を例に取ると、通常ランキングで世界上位に入っていたのは東京大学で、世界ベスト10にランクインしていました。しかし、正規化ランキングによる評価では、東京大学のランキングは大幅に減少し、その代わりに沖縄科学技術大学院大学（OIST）が世界第10位にランクインし、日本国内の研究機関で1位という輝かしい成績を上げていました。ちなみに、OISTの通常FCによるランキング自体は、世界第361位であり、上位には入っていませんでした。
研究機関の規模が小さくても目標を高く持ち、レベルの高い研究を
沖縄科学技術大学院大学（OIST）の例を見ると分かる通り、2019年に出された評価結果に関しては、発表論文数及び著者数でみると東京大学（その他、京都大学、大阪大学など）に大きく劣るものの、正規化ランキングで比較するとそれらの大学を抜き、日本をリードする成績を残していることが明らかになりました。見方を変えれば、通常ランキングで世界の上位に食い込んでいる研究機関は、発表論文の総数こそ多いものの、その中に占める著名な自然科学系学術ジャーナルへの貢献度が、低いということが分かります。
世界規模で見ても、通常ランキングでは中国科学院、米国ハーバード大学、ドイツ・マックス・プランク学術振興協会が上位3位にランクインしている一方で、正規化ランキングにおける結果を見ると、上位3位の研究機関がそれぞれ、米国コールド・スプリング・ハーバー研究所、オーストリア科学技術研究所及びイスラエル・ワイツマン科学研究所となっており、通常ランキングでの顔ぶれとは異なっているのが分かります。
このように、通常ランキングでは上位に入らない研究機関の中でも、正規化ランキングで上位に入り込む研究機関は、例え発表論文数及び著者数自体は少なくても、一つ一つの論文の質そのものを高めることにより、それがきっかけで各分野を世界的にリードし、将来的にはノーベル賞などを取る事も夢ではないはずです。正規化FCを用いた評価というものは今年始まったばかりですが、これから長年に渡り継続することで、各研究機関の正規化ランキングがどのように推移していくのかを、今後調査していくことが重要となるでしょう。
