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看護研究を進化させる混合研究法の実践と教育

看護研究によく用いられる研究方法としては、質的研究と量的研究があります。さらに近年では、臨床現場の複雑な事象を解明する「混合研究法」の重要性が高まっています。本記事では、混合研究法の基礎理論から主要な研究デザイン、意義と課題、国際ジャーナル向けのガイドラインまでを解説します。

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看護研究において混合研究法が求められる背景

臨床試験の多くは、「この薬剤を投与するか・しないか」「この治療法を実施するか・しないか」といった単純な介入について研究します。しかし、看護師が提供するケアや介入は、単一の変数で測定できるほど単純ではありません。対象となる患者の個別性はもちろん、患者や家族の反応、社会とのつながり、そして医療従事者との相互作用などが複雑に絡み合います。看護研究の多くは、このような「複雑な介入(Complex Intervention)」であると考えられます。※1

英国医学研究評議会(MRC)は、2000年に複雑な介入のためのフレームワークを開発し、現在に至るまで複数回にわたって改訂してきました。この「MRCフレームワーク」は看護研究において広く活用されており、2025年の報告時点で16,500件以上も引用されています。※2、3

MRCフレームワークによると、介入の「複雑さ」には以下のような側面があります。※4

● 介入対象や比較対象がもつ複数の要素が、相互に作用すること
● 介入にはさまざまな行動上の困難が伴うこと
● 介入対象である集団や組織には多様なレベルが存在すること
● アウトカムの多様さ
● 許容される介入の柔軟性やカスタマイズの程度にも幅があること

このような複雑な介入においては、ランダム化比較試験(RCT)を厳格に実施するのは困難です。そのため、バイアスや交絡をできるだけ制御しながら研究デザインや評価手法を組み立てることが求められるほか、一般化可能性や外的妥当性を重視することが大切です。この複雑介入の一連のプロセスにおいては、量的研究や質的研究を含むさまざまな研究手法が採用されます。※4

量的研究・質的研究それぞれの限界を克服し、エビデンスとしての有用性を高めるために発展してきたのが「混合研究法(Mixed Methods Research:MMR)」です。演繹法を用いる量的研究と、帰納法を用いる質的研究の両方を戦略的に統合する第3の研究アプローチといえます。※5、6

混合研究法の主要な研究デザイン分類

看護研究でよく用いられる典型的な研究デザインは以下の通りです。※4、5、7

デザイン名 概要とデータ統合のプロセス
収束デザイン
(収斂デザイン)
量的データと質的データを同時に並行して実施し、別々に収集・分析した結果を統合して比較または関連付ける手法
説明的デザイン
(説明的順次デザイン)
先に量的データを収集・分析し、その数値的結果の背景にある理由を質的データで深く説明する手法
探索的デザイン
(探索的順次デザイン)
先に質的データを収集して特定の現象を探索し、その知見に基づいて量的調査ツールを開発・検証する手法
埋め込み型デザイン 主となる研究手法の枠組みの中に、もう一方の手法を二次的研究として組み込み、特定の側面を補完的に評価する手法

さらに発展形として、ひとつの理論的な枠組みのなかで量的・質的研究を混合する「変革的デザイン」や、複数の研究フェーズを通して全体的なプログラム目標の達成を目指す「多段階デザイン」などもあります。※7

混合研究法の意義と臨床実践における活用事例

看護研究における混合研究法の意義として、以下の4点が挙げられます。※5

● 結果の妥当性と臨床的な信頼性の向上
● 数値の背景にある意図や心理的要因の解明による臨床的解釈の容易化
● 多面的なアプローチによる視座の明確化
● 臨床現場に潜む未知の要因や潜在的課題の探索

量的研究で得られたデータの信頼性を質的研究が支え、質的研究によってもたらされた結果が量的研究の結果の解釈に役立つなど、混合研究法では両方の研究が互いを補完しながら研究の質を高めます。

OPTIMプロジェクトでの活用

実際の看護・医療現場における混合研究法の象徴的な実例として、「緩和ケア普及のための地域プロジェクト(OPTIM)」があります。2008年度から2010年度にかけて実施され、公募で選ばれた全国4地域において、人材、冊子、DVD、研修会企画などによる多面的な介入が行われました。このプロジェクトでは、5,000人超の患者、家族、医師、看護師を対象に、介入前・介入中・介入後に調査票によるアンケートを実施し、量的データを収集しました。さらに、医療従事者を対象とした面接による質的データも収集しています。※8、9

OPTIMプロジェクトにはさまざまなアウトカムがありますが、聖隷クリストファー大学の緩和ケア専門医である森田達也氏らがまとめた論文によると、量的データによって「自宅での死亡率」および「緩和ケアサービスを受けた患者の割合」が介入後は有意に増加したことが示されました。量的データだけでは要因の特定は困難でしたが、インタビューなどの質的データの分析を通して、医療従事者間のコミュニケーションと協力が改善されたことで患者のニーズの充足につながった可能性が示されました。※4、10

看護領域のなかでも、在宅医療や緩和ケアは患者や家族のニーズが個別多様化しやすく、多くの医療従事者が関わることから、介入が非常に複雑化します。量的データと質的データを統合する混合研究法は、在宅医療や緩和ケアにおける複雑なリサーチクエスチョン(RQ)に取り組むのに適しているといえます。※8

混合研究法における課題

混合研究法は近年注目されている研究方法ですが、量的研究や質的研究と比べてまだ歴史は浅く、いくつかの課題もあります。主な課題を3つ解説します。

国内での普及や用語・概念の整理

世界的に見ると、混合研究法は約35年前に誕生したと考えられています。2007年には混合研究法の専門学術雑誌である「Journal of Mixed Methods Research」が創刊され、2013年には国際混合研究法学会(MMIRA)が設立されました。米国では国立衛生研究所(NIH)などの主導により、専門的なプログラムやワークショップが定期開催されるなど、混合研究法の普及が促進されています。※6

日本において混合研究法への関心が高まりはじめたのは2000年代初期と考えられており、2015年には日本混合研究法学会(JSMMR)が設立されました。国内でも混合研究法の論文数は着実に増えている一方で、「混合研究法」「ミックス法」「ミックスメソッド」などの用語の不一致が、文献検索や情報収集の障壁となっていることが指摘されています。混合研究法を普及し定着させるためには、用語や概念が整理・統一されることはもちろん、論文執筆時に研究者自身が論文中で用いる混合研究法の定義を明確にし、共通基盤を形成することが不可欠です。※6

また、比較的新しい手法であることから、査読者や共同研究者から妥当性について十分な理解を得にくいケースも存在します。混合研究法の学習・教育方法の検討に加え、量的研究と質的研究の両方に精通した研究者や査読者の育成も重要といえます。※5

研究期間の長期化

量的・質的アプローチの両方を行う混合研究法では、研究期間が長期化する傾向にあります。研究者にとっては、時間と労力をかけたわりになかなか研究成果を発表できず、効率が悪い研究方法ととらえられかねません。長期化した場合も研究を完遂しやすいチーム・アプローチが推奨されているほか、混合研究法の実施条件や発表方法などを整理したハンドブックの開発が求められています。※5

論文の文字数と情報量の制約

量的データと質的データを統合し、その統合プロセスについて正確に記述する必要があるため、混合研究法では文章量が増加しやすいのが課題です。特に、英語論文の場合は原著論文の一般的な規定文字数(3,000~5,000語)を超過しやすく、情報量の削減や記述の簡素化などが求められます。個別の詳細な統計や質的研究の逐語録は補足資料として別添するなどの対策も有効です。※11

異なる性質の分析データを統合する際は、「ジョイント・ディスプレイ」の活用も推奨されます。質的データと量的データを表やマトリックスなどで並置することで、質的研究と量的研究の各工程を横断して共通する概念などをわかりやすく示し、メタ推論の視覚化にも役立ちます。※12

国際ジャーナルへの投稿に不可欠な報告ガイドライン

研究成果を国際的な医学・看護学ジャーナルに投稿する際には、標準化された報告ガイドラインを厳密に遵守することが求められます。混合研究法の主なガイドラインを2つご紹介します。

GRAMMS(Good Reporting of A Mixed Methods Study)

GRAMMSは、保健医療分野における混合研究法の質を向上するために2008年に開発された、6項目のガイドラインです。※13

項目 論文に記述すべき具体的内容
混合研究法の正当性 本研究において、混合研究法を用いる理由(単一の手法ではなく、なぜ量的・質的データの統合が必要かという正当性)
研究デザイン 採用したデザインの種類、優先順位、および実施の順序
方法の詳細 量的データと質的データそれぞれのサンプリング手法、データ収集、および分析方法
データの統合 分析プロセスにおいて、量的データと質的データがどのように統合されたか
方法論上の限界 2つの異なる手法を組み合わせたことによって生じる特有の限界やバイアスについての考察
統合から得られる知見 それぞれの手法を単独で用いた場合には得られなかった、統合による新たな知見(メタ推論)
現在、最新の実践を反映した「GRAMMS 2.0」へのアップデートが進められています。※14

APAの執筆基準「JARS-Mixed」

アメリカ心理学会(APA)は、査読付きジャーナルに投稿される論文の科学的厳密性を高めるための指針として、量的研究、質的研究、混合研究法それぞれの学術論文報告基準を示しています。健康科学分野における混合研究法のガイドラインとしては、「JARS-Mixed」があります。※15

JARS-Mixedでは、論文の構成ごとに論文著者および査読者への注意事項がまとめられています。例えば、タイトルでは質的研究特有の言葉(「探究する」「理解する」など)や量的研究特有の言葉(「決定要因」「相関要因」など)の使用は避け、当該研究において用いた混合研究法・質的研究・量的研究を適切に参照することが示されています。また、方法においてはGRAMMSと同様に、「今回の研究目的に対して、なぜ混合研究法が適切なのか」を説明し、複数の探究アプローチを組み合わせた方法、質的データと量的データの両方を収集する必要性、そして両者を統合することで得られる付加価値について述べる必要があります。いずれの構成段階においても、質的研究のための「JARS–Qual」および量的研究のための「JARS–Quant」を参照しながら、適切に記述することが求められています。※16

混合研究法は看護学の発展に不可欠な研究法

量的データによって得られた客観的な実証性と質的データが示す主観的な文脈を統合する混合研究法は、看護臨床におけるさまざまな課題を解き明かすのに役立ちます。今後の看護学発展において、中心的な役割を担う研究方法といえるでしょう。混合研究法の論文を執筆する際は、適切なデザインを選択することはもちろん、GRAMMSやJARS-Mixedといった国際的なガイドラインに準拠し、ジョイント・ディスプレイを効果的に活用することが大切です。

参考資料

※1 宮下光令. (2020) MORECare声明:終末期ケアの介入研究を計画・実施する際に考慮すべきことのチェックリスト. 看護研究. 53(2). 136-137.
※2 伊藤奈央. (2020) 特集 看護研究における報告ガイドライン2 看護研究で念頭に置いておきたい報告ガイドライン30 Developing and evaluating complex interventions: new guidance—複雑介入の開発と評価. 看護研究. 53(2). 114-115.
※3 Louise Connell, et al. (2025) Applying the updated MRC framework for developing and evaluating complex interventions with integrated implementation conceptual knowledge: an example using NeuroRehabilitation OnLine. Frontiers in Health Services. 2025(5).
※4 秋山美紀. (2014) 特集 SFCが拓く知の方法論 地域介入とエビデンス複雑介入と混合研究法をめぐって. Keio SFC journal. 14 (1). 8-29.
※5 村田知佐恵. (2024) 短報 看護研究の一事例に基づく混合研究法活用の意義と課題に関する考察. 混合研究法. 3 (2). 326-330.
※6 抱井尚子, 阿部路子. (2024) 論説 日本における混合研究法関連論文の出版トレンド─国際比較に見るその特徴と課題─. Aoyama Journal of International Studies. 11.
※7 樋口倫代. (2011) [特集]第25回日本国際保健医療学会ワークショップ 現場からの発信手段としての混合研究法—量的アプローチと質的アプローチの併用. 国際保健医療. 26(2). 107-117.
※8 マイク・D.フェターズ. (2016) 第20回日本在宅ケア学会学術集会 教育講演 在宅ケア研究における混合研究法. 日本在宅ケア学会誌. 20(1). 31-38.
※9 がん対策のための戦略研究「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」 OPTIMプロジェクトについて.
※10 Tatsuya Morita, et al. (2013) Effects of a programme of interventions on regional comprehensive palliative care for patients with cancer: a mixed-methods study. Lancet Oncol. 14(7). 638-646.
※11 Sergi Fàbregues, Timothy C. Guetterman. (2025) Barriers to Publishing Mixed Methods Studies in Disciplinary Journals. Journal of Mixed Methods Research. 19(2). 126-130.
※12 抱井尚子. (2021) 基調講演 人間科学と混合研究法~理論編. インクルーシブ社会研究. 19. 11-34.
※13 PUBRICA. GRAMMS Guidelines for Reporting Mixed Methods Research.
※14 Sarah Munce, et al. (2025) Updating the Good Reporting of a Mixed Methods Study (GRAMMS) Reporting Guidelines: Protocol for a Methodological Review and Modified Delphi Process.
※15 APA Style. Journal Article Reporting Standards (JARS)
※16 APA Style. JARS–Mixed | Table 1