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評価の高いジャーナルを買収して乗っ取るジャーナル・スナッチャー(ハゲタカ出版社)に注意

論文の掲載料を搾取することを目的に、査読を十分に行わないまま論文を掲載するハゲタカジャーナルの手口はますます巧妙化しています。今、新たな手口として問題視されているのが、もともと評価の高かったジャーナルを買収などで乗っ取り、略奪的な行為を行う「ジャーナル・スナッチャー(ハゲタカ出版社)」の存在です。

2025年4月17日にnatureのnewsに掲載された記事“Invasion of the ‘journal snatchers’: the firms that buy science publications and turn them rogue”をもとに、ジャーナル・スナッチャーの特徴や学術界にもたらす影響を解説します。

ジャーナル・スナッチャー(ハゲタカ出版社)の特徴

ジャーナル・ステッチャーは、それまで査読を行い質の高い論文を掲載してきた出版社からジャーナルを買収し、まともな査読を行わずに次々と論文を掲載することで掲載料を稼いでいます。

2025年1月29日、グラナダ大学のAlberto Martín-Martín氏による調査記事 “Invasion of the journal snatchers: How indexed journals are falling into questionable hands”が、プレプリントリポジトリZenodoに掲載されました。この分析によると、買収などによって乗っ取られたとみられるのは36誌にも上り、それぞれ以下のような特徴があったといいます。

・掲載料の導入または大幅な値上げ
・出版される論文の不自然な急増
・質の低い論文の増加
・買収前のジャーナルとは異なるトピックの論文の増加
・偽のDOIの蔓延、関係のない文書からのDOIの流用 など

36誌のうち34誌については、調査のうえ学術データベースScopusのインデックスからすでに削除されました。17誌については、Web of Scienceのリストから削除されました。

これらのジャーナルを買収したのは、出版業界では実績のない、最近設立された国際企業ネットワークです。2020年以降、仲介会社の助けを得ながら、アメリカ、イギリス、スペイン、インド、トルコなどの国で最初に発行されたジャーナルの買収を進めてきたとされています。調査記事のなかでは、疑わしいと指摘されている出版社として、イギリスのOxbridge Publishing House、同じくイギリスのOpen Access Text、シンガポールのJCF Corp、マレーシアのIntellectual Edge Consultancyなどが挙げられています。

nature誌は、この分析で指摘された36誌すべてに対してコンタクトを取りましたが、いくつかの出版社は疑惑を否定するコメントを返信した一方で、残りの出版社はコメント要請に応じなかったといいます。natureがコンタクトを取った研究者が、自らの名前がそのジャーナルの編集者として誤ってWebサイトに記載されていたと主張しているケースもあり、研究者の氏名の不正利用も懸念されています。

ジャーナル・スナッチャーが学術界にもたらす悪影響

この分析の共著者であるEmilio Delgado López-Cózar氏は、買収提案として送られてきたeメールについて分析しました。買収には数十万ユーロが提示されることがあると報告されており、小規模なジャーナルにとっては非常に大きな金額であることから、出版実績のない出版社からの買収提案であっても受け入れてしまう可能性が懸念されます。しかし、買収後はジャーナルのWebサイトを見ても新しい所有者についての情報を確認できない場合があり、透明性が欠如していると言わざるを得ません。

ジャーナル・スナッチャーは、元の出版社が築き上げてきた高い評価を悪用しており、過去の査読実績や掲載論文数といった指標をもとに、研究者が投稿先のジャーナルとして選択してしまうおそれがあります。ScopusやWeb of Scienceなどの主要な学術データベースに登録されている品質の高いジャーナルが狙われやすいことから、研究者もジャーナル・スナッチャーかどうかを見抜きにくくなっています。

ジャーナル・スナッチャーによって買収された悪質なジャーナルに論文を投稿してしまうと、ハゲタカジャーナルに論文を掲載してしまった場合と同様に、論文だけでなく研究者自身の信頼性やキャリアにも悪影響を及ぼしかねません。高額な論文掲載料を支払ったにもかかわらず、主要な学術データベースからは削除され、一度公開されたがゆえに他の正当なジャーナルへの再投稿ができなくなるといった事態も考えられます。経済的および時間的な損失、学術的な信頼性の失墜、研究者キャリアの停滞など、さまざまな悪影響が予想されます。また、ジャーナル・スナッチャーが今後も増加すると、学術界全体にとっても正当な学術コミュニティの権利が奪われ、学術文献の多様性が失われる可能性があります。

ジャーナル・スナッチャーの被害に遭わないために、論文の投稿先を選定する際に研究者ができることとして、以下が挙げられます。

・主要な学術データベースや信頼できるリストを確認する
・ジャーナルのWebサイトを確認し、編集委員会や発行元、所有者に関する最新の情報を調査する
・ジャーナルの近年の動向として、論文の掲載数の不自然な増加や掲載料の大幅な値上げがないか調べる

少しでも疑わしいと感じた場合は、同じ分野の専門家や同僚に相談したり、他の投稿先を検討したりするのがよいでしょう。

関連記事:最新のハゲタカジャーナル対策の動向

参考文献

nature — Invasion of the ‘journal snatchers’: the firms that buy science publications and turn them rogue
Zenodo — Invasion of the journal snatchers: How indexed journals are falling into questionable hands

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