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ORCIDの取得状況(アメリカ)についての報告と2024年の年次報告について

ORCIDは、16桁の数字からなる、研究者一人ひとりを識別するための永続的な識別子です。運営元である同名の非営利団体は2010年8月に発足し、2012年10月より国際的PID 運営の取り組みとしてORCIDのサービスをリリースしました。2024年の年次報告書では、約331万件のレコードが更新され、約8000万件の項目が追加されたと報告されています。ORCIDの近年の利用状況と今後の展望について解説します。

なお、ORCIDの具体的な登録方法および設定方法については、こちらの記事をご覧ください。

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アメリカにおけるORCIDの取得状況に関する調査報告

2021年、Stephen R. Porter氏はアメリカの大学31校に所属する研究者を対象に、ORCIDの取得状況や取得理由についての調査を行いました。

調査の結果、対象者の72%がORCIDを保有していると回答しました。残りの19%はORCIDを保有していないと回答し、9%は不明と回答しています。ORCIDの取得率に男女差はほとんどなく、人種や民族には若干の差があったと報告されています。また、職位によるORCID取得率の差が見られ、准教授では67%、教授では71%だったのに対し、助教授では80%が取得しています。報告書では、終身在職権獲得のために自己PRの必要性が高いことが、職位によって差が生じる理由のひとつとして指摘されています。

ORCIDを保有している教員に取得した理由を質問したところ、最も多かった回答は「ジャーナルへの論文投稿に必須だから」(29%)でした。そのほかの回答としては、「職業的に有利だから」(25%)、「助成金の申請に必要」(9%)などがあります。学術雑誌の多くが論文投稿の際に著者のORCIDを要求しており、研究者がORCIDを取得するきっかけとなっていることがうかがえます。

また、ORCIDを保有していない教員のうち以前からORCIDの存在を認識している人に対して、取得していない理由を尋ねたところ、「メリットが見当たらない」(42%)が最も多く、次いで「キャリアが十分に進んだので、必要ない」(20%)や「ORCIDを必要としない学術分野に所属している」(16%)といった回答がありました。

未取得の研究者にORCIDの取得を促すには、メリットのさらなる周知が求められます。その一方で、すでに十分なキャリアがある研究者や、まだ新しく研究者の母数自体が少ない学術分野で活動している研究者にとっては、同姓同名のほかの研究者と混同されることなく研究成果を発表できるため、ORCIDのメリットを感じにくいことが推測されます。

なお、報告書冒頭の文献レビューでは、主要な研究機関等がORCIDの取得を義務付けている国(ポルトガルやイタリアなど)ではORCIDの取得率が80~90%と非常に高いことも指摘されています。報告書では、ORCIDにも限界はあるものの、科学研究において効果的なツールとなる可能性を秘めていること、世界中の学術コミュニティに浸透することでその有用性が拡大することなどが言及されています。

日本におけるORCIDの利用状況について

日本では2017年秋からコンソーシアムの設立に向けて活動が進められ、2020年4月には大学ICT推進協議会が中心となって「ORCID日本コンソーシアム」が設立されました。

その運営委員長である森雅生氏によると、2021年9月時点ですでに国内の登録数は16万件を超えているといいます。広く普及した要因として、ORCIDの利用に関する費用を研究者自身が負担する必要がないことが挙げられます。大学や研究機関、出版社などORCIDの有償機関会員が運営を支えており、これらの会員機関から提供された情報はORCIDの画面上で「Source 情報」と表示されることから、登録されている情報の改ざんを防止する機能も果たします。そのため、ORCIDは質の高い書誌情報を得られるサービスとしても認識されています。

ORCID日本コンソーシアムは、2025年2月にドイツで行われたORCID Consortia Lead Meetingにも参加し、世界各国のORCIDコンソーシアム担当者と運営や利活用について意見交換を行っています。参加した15か国のコンソーシアムからは、各大学または国全体で利活用されている状況についての報告があった一方で、費用負担の重さや新たにコンソーシアムに参加した機関へのサポートなどの課題も報告されたといいます。このように、世界各国のORCIDコンソーシアムが協力してコミュニティを形成しており、特定の企業や政府に依存することなく運用されていることも特徴といえます。

2025年は3か年の戦略計画の最終年

運営元であるORCIDが2022~2025年の3か年の戦略計画として掲げているなかに、「研究者にとっての価値を高める」という項目があります。2024年の年次報告書によると、研究者委員会のメンバーおよび研究コミュニティの助言を取り入れ、ORCIDレコードのユーザーインターフェースが更新されました。これにより、研究者がORCIDのレコードを作成・更新する労力の軽減とデータの品質向上が実現しました。そのほかの項目についても進捗状況が報告されています。 2025年は3か年の戦略計画の最終年にあたり、これらの項目が改善されて研究者の利益がますます向上することが期待されています。

参考文献

ORCID 2024 年次報告書
Springer Nature Link — Understanding ORCID adoption among academic researchers
Curren Awareness Portal — 米国の研究者コミュニティにおけるORCIDの取得状況(文献紹介)
ORCID利用の現状とこれから — 森 雅生
ORCID Japan Consortium
Curren Awareness Portal — ORCID, Inc.、2022年から2025年までの戦略計画を発表

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