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学術論文全てをオープンアクセス化へ、プランSの将来性

研究者の世界における学術論文の存在意義は非常に大きいものです。しかし、従来のシステムでは、学術論文は、大半が購読料の支払いが必要な購読誌に掲載されたものであり、完全に無料で全文を読めるオープンアクセスジャーナルというものはまだまだ少ないです。このような、論文の入手が煩雑な現状を打開するために、欧州の研究助成機関の協力を得た欧州委員会は、2020年から全ての学術論文をOA化する「プランS」という計画を発動させる決定をしました。

著者及び読者双方にとってメリットの薄い現状システム

最近ではオープンアクセスジャーナルが徐々に勢力を伸ばしつつあるものの、学術論文は依然として有料の購読誌に掲載されたものが非常に多く、論文を全文で入手したいと希望する読者は、論文一報を入手するだけでも高額なお金を支払わなければなりません。

この方式では、読者にとっては費用がかかり、著者らにとっては自分達の研究成果を出来るだけ多くの人々に閲覧してもらいたいのに、そのような高額な購読料のために、論文の閲覧者数が制限されてしまいます。また、完全なオープンアクセスジャーナルにしても、投稿の際は著者から掲載料を徴収しているため、著者にとって大きな経済的負担となることは否めません。このように、著者と読者双方にとってデメリットが多いため、現状の論文出版システムは改善しなければならない点が多いと言えます。

欧州委員会の強硬策

現在の時点で、主に欧州を中心とした地域にある16の研究助成機関は、欧州委員会と協力し、今後それらの助成機関から助成金などを受けた形で得られた研究成果を論文化する場合は、必ずオープンアクセスジャーナルに投稿することを義務付ける、という計画を決定しております。

この計画は「プランS」と呼ばれ、2020年の1月1日より実行される予定です。プランSが施行されれば、少なくともこれらの研究助成機関から助成を受けた研究の成果は全てオープンアクセスジャーナルに掲載されることによって、論文の無料閲覧化の拡大に大きく貢献することが期待されます。この場合、オープンアクセスジャーナルの出版社へ支払うための論文掲載料は、全て助成機関が負担する仕組みになっているため、論文を書いて投稿する著者らには経済的な負担が掛かりません。

またプランSでは、「原則として有料購読制だが、著者らから個別に掲載料をもらった場合のみ該当論文をオープンアクセス化する」という方針で動いている、ハイブリッド型オープンアクセスジャーナルへの投稿は禁止することも規則の中に盛り込んでいます。これは、ハイブリッド型オープンアクセスジャーナルの出版社がこの機会に乗じて、購読者と著者の両方から多額の料金を徴収して、売上至上主義に走ることを危惧したものと思われます。

プランSに協力する研究助成機関の拡大急務

先にも述べた通り、プランSに協力する研究助成機関の所属国は、欧州が中心となっています。一方で、学術雑誌全てに関して見れば、掲載されている論文の多くは、欧州以外の国で占められているのが現状で、中国、アメリカなどがトップクラスに入っています。このことからも分かる通り、プランSが将来的に持続するには、ヨーロッパ以外のこういった国々からの賛同と協力が必須になります。中国の場合は、国としてはすでに計画に賛同しております。アメリカやインドなども、プランSへの協力に前向きです。

そこで、次なるステップとしては、今度は実際に計画に参画する研究助成機関の数そのものを増やすことが急務だと考えられます。計画そのものの発端となった欧州に関しては、大半の研究助成機関は賛同したものの、他の国々に関して言えば、まだ計画に賛同する助成機関の出現が始まったばかりなのです。加えて、我が国である日本では、欧州などと違って、オープンアクセスジャーナルへの掲載料を負担してくれるような研究助成機関が余りにも少なく、オープンアクセスジャーナルへの論文投稿は専ら著者本人らの手で行わなければならないのが、今後の課題になるでしょう。

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