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研究力のみならず論文コストの考慮も重要

世界における日本の研究機関の研究力というものを評価するのに、しばしば「量」と「質」が議論の対象となります。前者は主にその研究機関で発表された論文の数、後者はその中でもとりわけ引用回数の多い論文数が評価指標となります。しかし、その評価方法だけで、その研究機関の研究力を的確に評価できるといえるのでしょうか?今回は、研究機関における研究力というものを従来よりも詳しく評価するのに、どういった概念を考慮に加えたらよいかどうかなどについて、研究を進めるに当たって必要なコストについてもご紹介します。

量と質のみに着目した評価法の短所

先にも述べたとおり、研究業績の量については、その研究機関でその年度の内に発表した論文の数が評価の対象となり、質については、その分野での全世界における被引用回数が多い論文、特にトップ10%以内に入る論文の割合が評価対象となることが多いです。こういった量と質両方をカバーするような評価方法であれば、一見するとその研究機関の研究力を適切に評価できるように思えるかもしれません。

しかしながら実際には、こういった評価方法だと、その研究機関の中の「とりわけ注目度の高い研究成果」だけが全面に出た評価に陥ってしまう場合が多く、同じ研究機関におけるその他の研究成果(すなわち、取り立てて引用回数の多くない論文)については、必然的に評価の対象から外れてしまうというパターンに陥ってしまいます。

引用回数が多くも少なくもない論文の評価も重要

世界中の誰からもほとんど引用されないような論文は、御世辞にも優れた研究成果であるとは言い難いでしょう。一方で、世界での引用回数のトップクラスには入れないものの、一部の専門家などからは高い評価を得て数多く引用されているような論文は、それなりにレベルの高い研究成果であるといえます。そのようなタイプの論文のことを、ここでは便宜的に「中間レベルの論文」と呼ぶことにします。こういった中間レベルの論文というものの存在は、その論文を発表した研究機関の研究力を、高く評価するための指標としてふさわしいであろうことは、容易に見当が付くと思います。

しかしながら、従来の評価方法では、あくまでも引用回数が世界トップクラスの論文だけが評価の対象とされていたことから、今述べたような中間レベルの論文はほとんど評価に反映されずに埋もれてしまった形になり、その研究機関の研究力を的確に評価するのを大きく妨げてしまいがちなのです。

現に、日本国内の大学では、こういった中間レベルの論文の発表件数が非常に多いといわれていることから、今後は大学をはじめとした研究機関の研究力を表す指標の中に、引用件数の多くも少なくもない中間レベルの論文の数というものも、取り入れるべきなのではないかと考えられます。

研究力の的確な評価に加え、研究のコストも考慮に

今までは、各研究機関の研究力そのものを従来よりも的確に評価するのにどうしたらよいかについて論じてきましたが、現実に研究というものを遂行するには予算が必要であり、如何にして与えられた予算の枠内で成果を出し切るかが重要となります。言いかえれば、出来るだけ予算の節約に努めた形で、高い研究力を発揮できるようにすることが望ましいともいえます。

実際に、今年は文部科学省において、国立大学の運営交付金を配布するに当たり、より少ない研究コストで高い引用数を誇る論文を数多く発表した大学に対し、交付金の額を上乗せする決定をしています。このような文部科学省の方針を受けて、今後はこのように、研究成果というものを論文として発表するために消費した予算の額も考慮に入れて、コスト節約に努めたやり方で高い研究力を発揮できるような研究機関が、高く評価される時代が来るのではないかと思います。

参考文献

学術の動向 2018.12 特集②若手科学者サミット―よい研究とは― 研究力の測り方-「質」、「量」、そして「厚み」 小泉周

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