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和文または英文で医学論文を書くときに注意すべき5つのポイント

どの分野であっても、論文は分かりやすく端的な文章で、論理的に執筆することが求められます。ここでは、特に医学論文を和文または英文で書くときに注意すべきポイントを5つご紹介します。

1.不必要な繰り返しを避ける

論文のタイトルに含まれる情報を抄録の冒頭やイントロダクションで繰り返すと、情報が重複し、長くて分かりにくい文章になりがちです。同様に、「材料と方法」で書いた内容を「結果」や「考察」で繰り返す必要もありません。推敲するときも、論文全体を通して情報の重複がないかを意識して読み返すのがおすすめです。

また、文章だけでなく図表も含めて不必要な繰り返しがないようにしましょう。文章で長々と説明しなくても理解できるように図表で示しているのであって、図表の内容を本文で補足したり詳細に説明したりする必要はありません。ジャーナルによっては、投稿規定に「同じ研究結果を2つ以上の形で記載してはならない」と明記しているものもあります。

2.冗長な表現を避け、簡潔な表現を心がける

無駄が多い文章は長くて読みにくく、論点も曖昧になってしまいます。論文を書くときは、和文でも英文でもシンプルかつ簡潔な表現を心がけましょう。次に挙げるような冗長な表現は避け、伝えるべき事実のみを簡潔に書くようにします。

例えば、数字を見れば当たり前に理解できることや、分かりきっていることを重ねて書く必要はありません。
(例)
男女比は10:3と男性に多かった。
 →男女比は10:3であった。
新型インフルエンザ感染者は1,075万人となり、1,000万人を超えた。
 →新型インフルエンザ感染者は1,075万人となった。

また、特に和文で書く場合は、書かなくてもよい無用の表現から書き始めてしまうことがあります。「~したところ」や「~としては」、「~について」などを書き始めに使わないよう意識するだけでも、文章が分かりやすくなります。
(例)
A群とB群を比較したところ、A群のほうがB群より有意に~が高かった。
 →A群のほうがB群より有意に~が高かった。
治療としては、~療法を2週間行った。
 →~療法を2週間行った。
A群の患者について血清CRPを測定したところ、……
 →A群の患者の血清CRPを測定したところ、……

同様に、和文の場合は文末の表現も無駄に長く曖昧になりがちです。回りくどい文末にせず、シンプルな文末表現にすることで、力強く説得力もある文章が書けます。
(例)
~であると言える。
 →~である。
まだ確立されていないのが現状である。
 →まだ確立されていない。
この結果は~であることを示唆するものと考えられる。
 →この結果は~であることを示唆する。

英文の場合は、「-tion」という接尾語を使った表現を極力減らし、動作を表す動詞に置き換えるのも有効です。
(例)
We made a presentation of ~
 →We presented~

「There is/are」から始まる文章も、必要に応じて無生物主語から始まる文章にすることでシンプルに表現できます。
(例)
There is ~ suggestion of this study.
 →This study suggested~

3.シンプルかつ短い文章を心がける

丁寧に説明しようとするあまり、修飾語句が増えて文章が無駄に長くなってしまうことがあります。例えば、「アルコールを分解する酵素であるADHは……」のように、主語を修飾して用語を解説するのは避けましょう。あまりにも基礎的な情報なので、医学論文の読者にとっては説明不要だからです。論文は基礎医学の教科書ではないので、周知の物質について細かく解説する必要はありません。どうしても説明が必要な専門用語は、必要に応じて脚注などを活用します。
英文で書くときも同様で、不必要な修飾語句が多いと読者にとって煩わしい文章になってしまいます。形容詞節を無駄に増やしたり、名詞句を複数挿入したり、文節を複数つないで長い文章にしたりせず、できるだけシンプルかつ短い文章で書きましょう。

ただし、一文を短くしようとして体言止めを用いたり、動詞を省略したりしてはいけません。論文は実験メモではありませんし、共同研究者でないと分からないような独りよがりの文章では、多くの読者に読んでもらえないからです。幅広い読者に研究の論点を伝えるためにも、分かりやすい文章を心がけましょう。

4.誤読されかねない曖昧な表現は避け、正確かつ具体的に書く

和文の論文で、文末に「~とされる」が続くときは注意が必要です。英文であれば、be thought, be considered, be believed, has been reported, reportedly, be claimed などを使い分けることもできますが、「~とされる」は曖昧な表現であり、ほとんどの場合で不要です。「~である」のようにはっきりと言いきるほうがよいでしょう。

同様に「検討する」という言葉は、例えば「サイトカイン産生量をELISAで検討した」や「細胞表面抗原を免疫組織学的に検討した」などさまざまな文脈で使われがちです。「測定した」「検査した」「検出した」と書き分けた方が、より正確で具体的に表現できます。英訳するときも、文脈に応じてexamine, investigate, study, analyze, evaluate, assess, review, determine, measureなど適切な語句を選びましょう。
ここまでシンプルかつ簡潔に書くことを重視してきましたが、短く書こうとするあまり言葉足らずになってしまうと、非論理的で意味が通らない文章になってしまうことがあります。むやみに文章を縮めるのではなく、正確に書くことを心がけましょう。
(例)
投与前後の~の増減を比較した。
 →投与前後の~の濃度を比較した。
酵素活性の上昇や石灰化結節を形成した。
 →酵素活性が上昇し、石灰化結節が形成された。
薬剤の至適血中濃度の維持と重篤な副作用を回避することができた。
 →薬剤の至適血中濃度を維持し、重篤な副作用を回避することができた。

また、和文で書くときにありがちな表現にも注意しましょう。例えば、臨床医が日常で使う「患者を経験する」や「自験例」といった表現は、論文にはふさわしくありません。直訳すると「We experienced a patient who~」となり、おかしな英文になってしまいます。「患者に遭遇する (We encounter~)」や「この患者(this patient)」などの表現を使って書くことで、和文の論文を英訳しやすくなります。

5.できるだけ主語を省略しない

日本語の文章では、「(私は)~を調査した」のように、一人称の主語はしばしば省略されます。論文でよく用いられるのは、「我々は~」という主語ですが、一方で「彼らは」や「患者は」など三人称の主語は明示されないことが多く、文章が不明瞭になりがちです。主語や他動詞の目的語が省略された和文を英訳するのは非常に困難であり、論文の著者本人でなければ(ときには本人であっても)、どんな語句を補って訳せばよいのか分からないことが多くあります。最初から英文で書くときはもちろん、和文で書くときも主語や他動詞の目的語を省略しないようにしましょう。

主語と述語の整合性にも注意が必要です。一文が長くなればなるほど、主語に対する適切な述語を見失い、意味の通らない不自然な文章になってしまいがちです。受動態と能動態の使い分けにも注意しながら、整合性のある文章になるよう注意しましょう。
(例)
以上の結果は、~が~することが推察される。
 →以上の結果から、~が~することが推察される。
 →以上の結果は、~が~することを示唆する。

また、文脈に応じて適宜「無生物主語」を用いた文章を書きましょう。特に、医学分野の論文を英語で書くときには、主語に「事例・症例(case)」や「患者(patient)」を用いることが多いので、区別して使う必要があります。Case は人ではないので、動詞に「診断する(diagnose)」や「治療する(treat)」を使うことはできませんし、関係代名詞 「who」の先行詞として使うこともできません。

これらの5つのポイントを意識し、読みやすく分かりやすい論文を書くよう心がけましょう。

参考文献

医学英語論文の作成に特化した Google 検索法

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります