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オープンアクセス(OA)は異分野引用を増やし知識移転を促進する

オープンアクセス(OA)がもたらす効果として、論文の被引用数が増加する、いわゆる「OA引用優位性」が挙げられます。しかし、分野ごとの分析やどのような被引用が増えているのかは、これまであまり議論されてきませんでした。そこで、科学技術・学術政策研究所は、ゴールドOA論文が異なる分野でどれくらい引用されているのかに着目した分析を行いました。報告書「ゴールドOAが異分野引用に与える効果:自然科学系論文に着目した分析」の概要を解説します。

報告書の背景および手段――OA化の加速と「OA引用優位性」以外の視点

近年、学術研究論文のOA化はますます加速しており、多くの国や研究機関において、公共資金によって支援された研究成果のOA公開を義務付ける政策が導入されています。日本においても、2025年度から競争的研究費制度によって助成を受けた論文は即時OAの対象となりました。内閣府の「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」によると、該当する競争的研究費による学術論文や根拠データは、学術ジャーナルに掲載された後、即時に機関リポジトリ等に掲載することが義務付けられています。

OAとしてインターネット上で公開された論文は、世界中から誰でも無料でアクセスできるようになり、被引用数も増えるとされています。OAの効果について議論される際も、論文の被引用数が増加することによる「OA引用優位性」に焦点を当てるケースが多く、ほとんどの先行研究でも「OA化によって被引用数が増えるか否か」を議論しています。しかし、OAが学術界にもたらす効果は、単なる被引用数の増加だけではありません。例えば、論文にアクセスしやすくなることで、異なる分野や非アカデミアセクター(民間企業、政府機関、非営利団体など)への知識移転を促進する効果も期待されています。

科学技術・学術政策研究所では、OAのなかでも特にゴールドOAに注目し、自然科学分野において異分野引用にどのような影響を与えているかを分析しました。「OA引用優位性」からさらに踏み込んで、「異分野引用」という視点で分析した報告書となっています。

具体的には、以下の方法で分析を行っています。

・OA引用優位性を測定する指標を「異分野引用」または「分野内引用」で区別し、異分野引用の増加についての新指標を導入
・2022年末時点のWeb of ScienceのXMLデータに基づき、2017年に出版され、自然科学系のScience Citation Index Expanded (SCIE)に掲載されたゴールドOA論文および非OA論文を分析対象論文とする
・引用論文の出版年は、2017~2022年の6年間に限定し、SCIE以外のエディションを含む全論文を引用している論文を対象とする

OA化には「異分野への知識移転」という効果があることが示された

分析の結果、ゴールドOAは自然科学系の多くの分野において、分野内引用および異分野引用の両方を増加させることが明らかとなりました。また、自然科学系の18分野のうち13分野においては、一定の条件下で異分野への知識移転が促されることが示されました。

異分野引用にのみOA化の効果が見られたのは、臨床医学、化学、計算機科学の3分野です。特に、臨床医学分野のOA論文は分野内引用の割合が低い一方で、生物学や免疫学などの“近い分野”から多く引用されています。OA化によって当該論文へのアクセスが容易になり、近い分野からの異分野引用が増えていることが示唆されています。

なお、化学や物理学など、分野内引用が多い一方で異分野引用が少ない分野もあり、特定のジャーナルやトピックに集中している傾向も見られました。異分野からのニーズが大きいトピックを扱う特定のOA論文によって、集中的に異分野引用が促進されているといえます。

また、この報告書では、日本、中国、アメリカの3か国の比較も行われました。その結果、中国・アメリカと比べて日本はOA化による異分野への知識移転の促進効果をより多く享受していることが示されました。特に、環境・生態学および数学の分野は日本のみ異分野引用の値が正となっており、分野によって、あるいは国によってOA化がもたらす効果にも差異があることがうかがえます。

OAは異分野引用の増加や知識移転の促進などの効果をもたらす

この報告書は、自然科学分野およびゴールドOAに限定して分析されており、人文学や社会科学など他の分野またはグリーンOA・ハイブリッドOAなどにも当てはまるとは限らないことに注意が必要です。また、自然科学分野のなかでも分野あるいは国によって分野内引用と異分野引用の増減の傾向が異なることから、安易に「OA化によって総合的な被引用数が増える」と主張すべきではないとしています。

しかしながら、今回の報告書によって、OA化は異分野への学際的な引用を促進し、異分野への知識移転や研究の影響力を高める可能性が示唆されたといえます。この結果は、研究者が論文をOA出版する際の検討事項として役立てられることでしょう。

参考文献

科学技術・学術政策研究所ライブラリ — ゴールドOAが異分野引用に与える効果:自然科学系論文に着目した分析
Curren Awareness Portal — 内閣府、「「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」の実施にあたっての具体的方策」を改正

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