シュプリンガー・ネイチャー社の第4回年次報告書「2024 OA report」の概要
シュプリンガー・ネイチャー社は2025年7月31日、年次報告書「Springer Nature’s 2024 OA report」を公開しました。報告書の概要はこちらからもご覧いただけます。今回が4回目となるこの年次報告書には、OAジャーナルに関するさまざまな分析がまとめられています。今年は同社が始めた転換契約の締結から10周年の節目にあたるため、転換契約にスポットを当てた分析も行われました。同社が推進してきた転換契約の10年の軌跡や、OAジャーナルの近年の動向について、本報告書に基づき解説します。
OA出版がもたらす恩恵
シュプリンガー・ネイチャー社が2024年に出版したOA論文は、前年比で31%増加し、約24万本となりました。現在、同社の一次研究のうち約50%はOA出版されており、2022年の年次報告書において掲げられていた、「2024年末までに一次研究のうち半数をOAにする」という目標が実現したといえます。
同社のOA書籍コンテンツのダウンロード数を見ると、こちらも前年より31%増加しました。2024年には1冊あたり平均33,110回ダウンロードされていることがわかっています。
OAジャーナルコンテンツのダウンロード数も前年より30%増加し、2024年にはダウンロード数の合計は17億回を超えると予想されています。一人あたりの著者にすると、2024年には論文1本あたり平均1,035回ダウンロードされていることになり、前年の平均ダウンロード数と比べると12%増加しています。
同社のフルOAジャーナルに掲載された論文の引用数を見ても、著者は大きな恩恵を受けていることがわかります。2023年に出版されたフルOA論文の引用数を見ると、同社の論文は1本あたり平均6.3回が引用されており、上位5社の出版社のなかで最も高くなっています。2022年の平均引用数と比べても約7%増加しており、OA出版による恩恵はますます高まっていることがうかがえます。
このように、著者に恩恵を与えるOA論文は年々増加していますが、フルOA論文の平均アクセプト率はこの数年で低下しています。2019年には29.5%でしたが、2024年には21.1%となっています。これは、同社がより高品質なOA論文を出版するために尽力していることの表れといえます。
転換契約の10年間の軌跡
OA出版を加速させている要因のひとつに、同社が2015年に始めた「転換契約」があると考えられます。2015年以降、転換契約の平均成長率は42%となっており、2024年にはゴールドOA論文が約10倍に増加しました。2023年から比べても約7倍も増加しており、2024年に転換契約経由で公開されたOA 論文は55,000件を超えています。
同社の転換契約を通じて公開された論文は、2019年から2024年の5年間で7億3,700万回以上ダウンロードされています。転換契約によるOA論文の増加は、著者にとっても論文を読む研究者にとっても大きなメリットがあるといえます。
実際に、転換契約は学術論文への公平なアクセスの向上にも役立っています。例えば、アフリカや南米においては、購読論文のダウンロード率と比べて転換契約によるOA論文のダウンロード率は11~13倍高くなっていることがわかっています。
転換契約は、公平な研究の未来に向けた効果的な手段であり、同社はこれからも転換契約によるOA出版を推進していくと考えられます。なお、2024年には新たな転換契約が22件加わりました。現在、世界中で80件以上の転換契約が進行しており、3,700以上の機関をカバーしています。
低中所得国を含む世界的なリーチの拡大
OAコンテンツは、特に低中所得国において活発に利用されています。同社のOAコンテンツのダウンロード数は、2024年は1億8,200万件を超えていました。これは前年と比べると21%増加しており、低所得国に絞ると約14%の増加となっています。
OAコンテンツの利用が最も多かったのはインドで、9,700万件以上のダウンロードがありました。同社はインドの政府機関と初めての転換契約を締結し、OA論文出版数の成長率も顕著だったことが報告書のなかで指摘されています。そこで、同社はインド社会科学研究評議会(ICSSR)および教育省の協力のもと、「シュプリンガー・ネイチャー・インディア・リサーチツアー」という取り組みを始めました。インド国内のさまざまな教育機関や大学を訪問し、インドの研究コミュニティとの交流やOA出版を含むさまざまな課題についての対話、若手研究者や女性研究者への支援などを行っています。
同社の転換契約とOA出版の動向に今後も注目
日本に関するトピックスとしては、2023年に10大学から始まった転換契約のネットワークが、この2年間で60大学に拡大しました。これにより、2,400件以上のOA論文が出版される見込みだと報告されています。
また、OA出版に関するこれからの取り組みとしては、以下が挙げられています。
・出版プロセスの効率化、研究の質の向上、著者と読者双方にとってのアクセシビリティの向上を実現するためのツールへの投資
・OA出版を容易にする次世代プラットフォームの構築(Snapp、Springer Nature Linkなど)
・著者がより簡単かつ透明性をもって研究成果を共有するためのプロトコルの導入、プレプリントの採用増加、再現性に関するパイロットスタディ、年次レポートなどの取り組み
シュプリンガー・ネイチャー社の次回の年次報告書にも注目しましょう。
関連記事:2022 OA ReportとOAファクトシートから見るシュプリンガー・ネイチャー社が著者にもたらす恩恵とは
参考文献
Springer Nature Advancing OA — 2024 Open Access Report — Expanding the global pool of knowledge for all
Springer Nature — Press Release — Springer Nature’s 2024 Open Access (OA) report highlights growing value for authors
Springer Nature — 【プレスリリース】シュプリンガーネイチャーの2024年オープンアクセス(OA)報告書は、著者にとっての価値が向上していることを明らかにしています
Springer Nature Advancing OA — Advancing the transition to open access (OA) Springer Nature’s 2022 OA Report
Springer Nature –【プレスリリース】シュプリンガーネイチャー、日本における転換契約を拡大し、オープンアクセスへのさらなる移行を支援