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新型コロナウイルス感染症による研究活動への影響―NISTEPによるWebアンケート結果よりー

新型コロナウイルスによる、世界での感染拡大が始まってから2年余りが過ぎました。日本では幸いなことに、ロックダウン(都市封鎖)までには至っていませんが、二度にわたる緊急事態宣言を経て、現在でも31の都道府県で「まんえん防止等重点措置」が実施されています(2022年2月現在)。

アメリカ ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、2022年2月21日現在、世界の感染者は4.2億人以上、死者(累計)はおよそ590万人です。
日本だけでも、累計感染者数は440万人以上、累計死亡者数は2万人以上。オミクロン株の発生により、重症者数や死亡数は一時期よりも減少していますが、毎日7万人を超える新規感染者が確認されるなど、まだまだ収束には至っていません。

そうした中、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、新型コロナウイルス感染症による日本の研究活動への影響についての調査結果を公表しました。

調査の概要

2022年1月20日、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、「新型コロナウイルス感染症による日本の大学における研究活動への影響」についての調査結果を、【DISCUSSION PAPER No.204】として公開したことを発表しました。この調査の目的は、「コロナ禍による日本の研究活動への影響を横断的に明らかにし、コロナ禍を踏まえた科学技術政策のあり方を検討する際の示唆を得ること」とされています。

日本で最初の新型コロナウイルス感染者が確認された2020年1月から、およそ半年後の同年9月までの期間におけ、研究活動への影響について、Webアンケート調査が行われました(Webアンケートの実施期間は2020年9月11日から同年12月25日)。調査対象は、全回答者2,470名のうち、日本の大学に所属する自然科学系の研究者1,275名の回答データです。
調査項目は大きく4つありました。

1. 研究活動への影響(多肢選択式)
2. 研究活動の進捗状況(多肢選択式)
3. 研究活動を行う上でのデジタルツール等の活用状況(多肢選択式)
4. 現状の懸念等と今後求められる変化・対応等(自由記述式)

これらに関して、計16の項目に回答する形でアンケート調査を行い、回答者それぞれの専門分野、研究手法、所属大学の規模やその所在都道府県の感染状況による影響の違いに着目した分析が行われました。

研究活動に対するコロナ禍での影響

研究活動そのものへの影響と、事務手続きへの影響

NISTEPの分析によると、「人の移動やコミュニケーション」に関する項目では、感染率の高いまたはやや高い地域においては、「研究室や実験室へのアクセス」、「研究グループ内でのコミュニケーション」、「研究者や学生の移動」について、マイナスの影響が大きい傾向がみられています。

また、事務手続きや業務の変化については、論文数でみる規模の小さな大学、あるいは感染率の高い地域の大学ほど、マイナスの影響が大きくなったようです。

研究の進捗状況

さらに、研究活動の進捗状況についてみると、論文数でみる規模の大きな大学よりも小さな大学の方が、感染率の観点では感染率の低い地域よりもそれ以外の地域の方が、研究活動が停滞もしくは停止した傾向がみられていました。

研究活動を行う上でのデジタルツールの活用

当アンケート調査において対象となったデジタルツールは、次の9点です。

①テレワークシステム
②ウェブミーティングシステム
③ビジネスチャット
④ファイル共有システム
⑤プレプリントサーバへの投稿
⑥クラウド環境での論文執筆
⑦オープンデータ
⑧実験機器のオンライン利用
⑨実験機器の自動化

これらのデジタルツールの活用状況について、「2020年1月以前より本格的に活用」「2020年1月以降から本格的に活用」「活用していない」での回答を求めたところ、次のような状況が見えてきました。

まず、①テレワークシステム、②ウェブミーティングシステム、③ビジネスチャット、④ファイル共有システムに関しては、活用率が高かったことが分かりました。このうち特に①②③については、日本がコロナ禍になって以降から活用され始めた割合が大きく、④のファイル共有システムについては、コロナ禍となる以前からすでに、広く活用されていました。コロナ禍前後での活用率の合計は、②ウェブミーティングシステム98%、④ファイル共有システムは86%となっています。

しかしその一方で、⑤プレプリントサーバへの投稿や、⑥クラウド環境での論文執筆、⑦オープンデータ、⑧実験機器のオンライン利用、⑨実験機器の自動化については、コロナ禍以前からも活用されてはいるものの、コロナ禍となってからも活用率はそれほど伸びていませんでした。⑧と⑨に関しては、コロナ禍以前8%、コロナ禍以降2~3%と、合計で10%程度の活用率しかありませんでした。

現状の懸念等と今後求められること

現状の懸念として、研究者の立場としては、学会等における研究者間の交流による情報収集、あるいは共同研究の構想が困難になっている様子が伺え、さらに、コロナ禍では人を対象とした研究の実施や、研究の継続性の維持が難しくなるという側面が見えてきました。

これらのさまざまな懸念に対しNISTEPでは、今後の活動に求められることとしては大きく3つ、デジタル化・オンライン化に関する事項、研究費に関する事項、マクロレベルでの体制・制度の整備に関する事項に大別できることが分かりました。

まとめ

これらを統括した結果、NISTEPは「論文数でみる所属大学の規模、専門分野(部局分野)、主な研究手法、所在地の感染状況の違いによって、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が大きい研究活動の局面がどの様に異なっているかが明らかとなった。本研究の知見は上記の属性の違いに応じた異なる支援への期待があることを示すものであるとともに、そうしたきめ細かい施策を検討する際の手掛かりとなることが期待される。」としています。

参考文献

文部科学省 科学技術・学術政策研究所 新型コロナウイルス感染症による 日本の大学における研究活動への影響
アメリカ ジョンズ・ホプキンス大学 COVID-19 Dashboard
厚生労働省 データからわかる-新型コロナウイルス感染症情報-

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