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日本初の本格プレプリントサーバー 「Jxiv」 運用開始

近年、学術雑誌掲載に先んじて、査読前の論文をオープンアクセスで公開する仕組みであるプレプリントサーバーが大いに活用されています。2010年代後半、特に2016年には全体の約6割にあたるプレプリントサーバーが活動を開始する「プレプリントサーバー第二の波」と言われる状況でした。このような世界の現況の中、2022年3月24日、ついに国立科学技術振興機構(JST)による日本初の本格的なプレプリントサーバー「Jxiv(ジェイカイブ)」の運用が開始されました。

プレプリントをめぐる流れ

プレプリントは、査読前論文とも呼ばれます。つまり、査読も出版もなされる前の、いわば草稿原稿やラフ原稿の状態です(詳しくはこちら:プレプリントサーバーとは何か)。査読前の論文を共有すること自体は昔から行われていました。もちろん現在のようにインターネット上で公開ということではなく、仲間内、身内、共同研究者などの間で、紙媒体による情報共有が行われてきました。

ところが、インターネット技術が一般的となり、世界中の人たちとの情報共有が一般化したきたこともあり、学術論文の世界でもインターネット上で情報共有するという意識が生まれました。1961年には、アメリカの国立衛生研究所によって設計されたIEGs(:Information Exchange Groups)と呼ばれる、生物学分野におけるプレプリント流通を目的とした情報交換プログラムが公開されました。このプログラムは3,600人以上の参加者から2,500報を超えるプレプリントを集めることに成功しました。この動きは、プレプリントサーバーの第一波と呼ばれています。しかしIEGsは、既に投稿された内容や、別の場で報告されていたものには、論文の受け入れを拒否するという、という学術ジャーナルの編集方針(インゲルフィンガー・ルール)を示していたこともあり、立ち上げからわずか7年ほどで閉鎖されています。

その後、1991年には物理学分野を中心とした「LANL preprint archive」が立ち上がり、それまで紙のプレプリントを互いに郵送という手段で情報のやり取りを行っていた時代から、インターネットを利用した公開・情報共有の場と移り変わっていくことになります。

そして2016年ごろを境として、さまざまな学問分野および地域に根ざしたプレプリントサーが、次々と公開されました。全体の 60%を超えるプレプリントサーバーが 2016 年以降に公開されたといわれており、プレプリントサーバーの第二波とも呼ばれています。

日本初本格プレプリントサーバー 「Jxiv」とは

現在では多くのプレプリントサーバーが設置・公開されています。それぞれにいくつかの特徴があるものの、設置の隆盛とともに世界のプレプリント投稿数は、拡大を続けています。一方で、日本からのプレプリント公開はまだまだ少ないというのも現実です。その要因のひとつとして考えられるのが、国内にはまだ本格的なプレプリントサーバーが存在していないことです。そのような状況の中で、JSTが2022年3月に運用開始したのが、Jxivです。

Jxivは費用負担なくプレプリントの閲覧、投稿・公開を行うことができ、投稿・公開は日本語でも英語でも可能になっています。研究分野としては、自然科学分野を始め、人文学・社会科学から学際・融合領域すべてをその範囲としています。投稿については国内外から受け付けているJxivですが、現在は、ORCIDまたはresearchmapのIDを所持している研究者のみが、投稿可能となっています。

投稿されたプレプリントにはまず、国際的識別子DOIとライセンス条件が付与されます。その後、JSTによるスクリーニングが行われ、数日後にはオープンアクセスコンテンツとして、世界に向けて公開されます。Jxiv上で公開されたプレプリントは、学術ジャーナルから査読付き論文として出版・公開された後もオープンアクセスで公開が継続され、ジャーナル公開版へのリンク掲載も可能になっています。なお、公開されたプレプリントは、学術ジャーナルで査読後受理されるまでならば、改版することも可能です。

プレプリントを公開することで、研究成果をいち早く公表し、コミュニティでの情報共有や迅速なフィードバックを得ることを可能にし、そこから生まれる新しい知見に触れることも可能となります。一方で、査読前に世界に向けて公開することによる、リスクがあることも事実です。

それでも、世界中が同時に大きな社会課題を解決することが求められる時代においては、特にその存在意義を発揮しています。プレプリントサーバーJxivが運用開始されることで、日本の研究者や研究の存在感を高める、研究コミュニティを活性させるという点にも期待が寄せられます。

参考文献

尾城孝一,進化するプレプリントの風景,情報の科学と技術70巻2号,83~86(2020)
科学技術振興機構(JST) 科学技術振興機構報 第1551号 JSTのプレプリントサーバー「Jxiv(ジェイカイブ)」の運用開始~日本で初めての本格的なプレプリントサーバー~
文部科学省 科学技術・学術審議会 情報委員会 ジャーナル問題検討部会(第7回) プレプリントをめぐる近年の動向及び今後の科学技術行政への示唆
日本医学会 医学分野におけるプレプリントをめぐる動向
国立情報学研究所 オープンサイエンス基盤研究センター 変わりゆくプレプリントの機能

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