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世界における科学技術活動の現状、日本の国際的地位の低下はまだ続くのか~科学技術指標2022~

科学技術指標2022を公表

2022年8月9日、文部科学省 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、「科学技術指標2022」を取りまとめ公表しました。これは、毎年公表されている客観的・定量的データに基づいて体系的に分析した基礎資料となる報告書であり、主要7か国(日本、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリス、中国、韓国)の科学技術活動についての現状を取りまとめたものです。

各国での科学技術活動を5つのカテゴリー(研開発費、研究開発人材、高等教育と科学技術人材、研究開発のアウトプット、科学技術とイノベーション)に分類し、約170の指標の状況を示しています。

なお今回の「科学技術指標2022」では新たな指標として、「大学発ベンチャー企業の状況」等が加わりました。

主要指標の動向は

約170の指標のうち、主要な指標としてその動向が注目されるのが、「研究開発費」、「研究者数」、分数カウント法による「論文数」、「特許(パテントファミリー)数」、注目度の高い論文数を示す「Top10%補正論文数」「Top1%補正論文数」です。

これらの指標において日本の状況をみると、「特許(パテントファミリー)数」は1位、「研究開発費」、「研究者数」はアメリカ、中国に次ぐ3位でした。これらの指標では前年と同順位を維持していますが、伸びという視点では、他の主要国に比べ小さいものに留まっています。

また「論文数」では2021年の4位から5位、「Top10%補正論文数」では同様に10位から12位、「Top1%補正論文数」では同様に9位から10位と、いずれも主要国以外を含めての順位ではありますが、下がる結果となりました。その一方で、「Top1%補正論文数」においては初めて、中国がアメリカを上回り、世界1位になっています。

高等教育と科学技術人材にみる状況

今報告では、科学技術振興におけるもっとも重要な基盤のひとつが、科学技術関連の人材育成であると述べられています。このカテゴリーにおける日本の状況として、他の主要国と大きな差が出ているのが、人口100万人当たりの学位取得者の分野バランス、博士号取得者数です。他国も含め、日本においても学士号取得者では「人文・社会科学」系が多くを占めていることが多いのですが、日本では修士・博士号取得者になるにつれ「自然科学」系が多くなる傾向にあります。

一方、他国では修士号取得者でも「人文・社会科学」系が最も多く、博士号取得者で「自然科学」系が最も多くなるという傾向にあります。また、人口100万人当たりの博士号取得者数において、2000年代ではドイツが一番の規模でした。2010年度頃にイギリスがそれに追いつき、同程度に推移してきましたが、2020年度から減少傾向にあります。対して、2000年度には日本と同程度であったアメリカと韓国が、最新のデータでは日本の倍以上となっています。

なお、日本は2006年度をピークに、減少傾向が続いています。

研究開発のアウトプット(論文)にみる状況

世界で発表される論文量は一貫して、増加傾向が続いています。2019年から2020年にかけての増加量は約10%で、2020年の自然科学系論文数は190万件となっており、1981年の約4.7倍に膨れ上がった結果となっています。分野別では、新型コロナウイルス感染症関連の研究活動の活発化によって、臨床医学と基礎生命科学が大きく増加しています。また、ジャーナル数の拡大も、論文数増加の要因と考えられています。

さらに各国の論文共著形態をみてみると、各国とも国際共著論文の割合が増加していることにも着目しています。その割合は国によって差がありますが、2020年時点で特にヨーロッパ諸国での比率が高くなっており、イギリス72.5%、フランス66.7%、ドイツ63.3%と、非常に高い結果となっています。

一方の日本は37.4%で、1981年に比べると33ポイントの増加であり、研究活動のスタイルの変化がみられているようです。

分数カウント法における論文数シェアの推移をみてみると、日本は1980年代から2000年代初頭までは数値を伸ばしていて、一時は世界2位になった時期もありました。しかし、1990年後半からは中国の台頭が顕著となり、そのシェアを拡大し続けています。2018年から2020年(出版年)の平均シェアでは、1位中国23.4%、2位アメリカ16.8%、3位ドイツ4.0%、4位インド4.0%、5位日本3.9%となっており、日本だけでなく、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスでもシェアは低下する傾向があります。

「Top10%補正論文数」、「Top1%補正論文数」においても、他国を大きく引き離していたアメリカが、1990年代から下降傾向を続けています。日本は1980年から2000代初頭の緩やかな増加ののち低下を続け、現在は主要国中最下位です。こうした推移変化がみられる状況のなか躍進する中国は、遂に「論文数」、「Top10%補正論文数」、「Top1%補正論文数」、いずれにおいても世界1位となっています。

まとめ

今回の報告における日本の状況は、順位を維持していても伸びの点でその幅の小ささが明らかになり、また、論文シェアにおいてはいずれの指標においても順位を落とす結果となっています。今後の日本の科学技術活動における国際的な地位向上のためには、前述の博士号取得者数の状況などからも、研究者の人材確保がひとつのカギとなりそうです。

参考文献

文部科学省 科学技術・学術政策研究所、科学技術指標2022、調査資料-318、2022年8月

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