Science News

民間企業による博士号取得のサポートについて~民間企業の研究活動に関する調査報告2021~

文部科学省の科学技術・学術政策研究所では、民間企業の研究活動について毎年調査を行っています。調査項目は、研究開発者の雇用状況、投資の動向、政府の施策、制度の利用状況など多岐にわたります。2021年度は資本金1億円以上の企業のうち社内で研究開発を行っている3,685社に対して調査が行われ、1,891社から回答を得ました。

この記事では『民間企業の研究活動に関する調査報告2021』の中から雇用状況に関する調査結果の概要をまとめながら、民間企業による博士号取得のサポートについてご紹介します。

研究開発者の雇用状況について

研究開発者は、企業が研究開発活動を続けるにあたって重要な投入資源のひとつです。調査によると、2020年度における1社あたりの研究開発者の数は平均148.9人でした。ただし、資本金が1億円以上10億円未満の企業では平均28.7人、10億円以上100億円未満の企業では平均74.4人、100億円以上の企業では平均620.2人と、資本金の規模によって大きな差があることが分かります。研究開発者の年齢別でみると、資本金が少ない企業ほど若い研究開発者の雇用が多いことがうかがえます。一方、資本金100億円以上の企業については、30代後半と50代前半の研究開発者の割合が高くなっています。

2020年度の採用状況としては、新卒・中途を問わず研究開発者を新たに採用した企業は57.6%と、2011年度以降過去3番目に大きい割合となりました。2014年度から5年連続で増加したものの2019年度にはいったん減少し、2020年度になって再び増加に転じた形です。学歴・属性別にみると、新卒または中途で修士号取得者の採用を行った企業は3年ぶりに増加した一方で、学士号取得者および女性研究者の採用は前年より微減し、博士課程修了者の採用も減少しています。

学歴・属性別の新卒採用者数について

続いて、研究開発者の新卒採用者数に注目してみましょう。中途採用を行った企業は37.6%と2年連続で減少している一方で、新卒採用を行った企業の割合は減少傾向から一転して46.5%となり、前年度より約8ポイント増と大きく伸びました。学士号取得者や博士課程修了者の新卒採用者数は横ばいですが、修士号取得者と女性研究開発者の新卒採用者数は前年より増加しており、中途採用が前年から大幅に減少したことを考えると、新卒採用に力を入れる企業が増えていることがうかがえます。実際、2013年度以降、新卒の研究開発者は全体的にゆるやかに増加しています。ただ、博士課程修了者およびポストドクター経験者については、新卒採用は3年連続で減少という結果になりました。

また、研究開発者の採用において企業が何を重視しているかもこの調査から分かります。学士号取得者・修士号取得者に対しては「研究開発者の基本的な能力」や「潜在的な能力」、「今後の技術変化に対応する能力」などを重視する企業が多く、一定レベルの研究開発人材を量的に確保したいという思惑がうかがえます。一方、中途採用者に対しては、回答した企業の4分の3近くが「即戦力として期待できる人材であること」を重視しており、自社にとって重要な分野や今後導入したい分野の専門知識を持っている人材を積極的に採用したいと考えていることが分かります。なお、博士課程修了者の採用においては中途採用者同様、専門性や即戦力を期待する企業が多くなっています。

民間企業による博士号取得のサポート

博士課程修了者を新卒または中途で採用した企業の割合は9.6%と低い一方で、一部の企業では研究開発者が勤務しながら博士号を取得できるようサポートしていることも分かりました。2020年度の調査によると、社会人の大学院通学のサポートを行っている企業は13.6%、論文博士による博士号取得をサポートしている企業は13.5%と、博士課程修了者を採用した企業よりも多くなっています。
ほかにも、入社後に大学院で学位を取得することで処遇や給与が向上する制度を設けている企業が4.2%、能力向上を目的として研究開発者を大学や公的研究機関に派遣している企業が17.0%、学会や研究会に参加するための資金的援助を行う企業が41.9%と、さまざまな方法で研究開発者のサポートが行われていることが分かります。 その一方で、いずれも実施していないと回答した企業は41.2%あり、企業によって博士号取得に対する支援の状況が二分化していることもうかがえます。

なお、今回の調査では9年ぶりに、企業が博士課程修了者を採用しない理由も調査されました。「マッチングがうまくいかなかったため」と回答した企業が多く、52.6%と過半数を占める結果となりました。企業が求める専門分野にマッチした博士課程修了者が見つからない、そもそも応募がないなどのケースがあるようです。
次いで多かった回答は、「特定分野の専門的知識を持っていても自社ですぐには活用できないから」が27.7%、「社内の研究開発者の能力を高める方が、博士課程修了者を採用するよりも効果的だから」が23.6%と、博士課程修了者の持つ専門性が各企業の研究開発に適合しにくいことによるミスマッチがうかがえます。

この調査結果を総合すると、自社の研究開発方針に合う良い人材がいればぜひ採用したいという企業も多いことが読み取れます。また、研究開発者の博士号取得をサポートする民間企業には、自社の研究開発分野にマッチした人材を増やしたいという背景があるとも考えられます。いかにして博士課程修了者と企業とのマッチングを向上させるかが、採用数増加に効果的だといえます。

参考文献

文部科学省 科学技術・学術政策研究所ライブラリ

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります