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オープンアクセスジャーナル「長期保存対策」に対する、世界の動き

オープンアクセスジャーナルの発展とその課題

現代の学術研究者にとって当たり前のものと言えるのが、学術雑誌の電子化、オープンアクセス(OA)です。特に2000年以降は、購読者に費用負担を求める形ではなく、論文著者に対してAPC(論文処理費用)という形で費用負担を求めることで、ウェブ上に掲載論文を無料で公開できるようになりました。この動きによるOAジャーナルの発展のスピードには、目を見張るものがありました。

ただし、その中では多くの課題が認識されるようになりました。大きな問題となったのが、ハゲタカジャーナルの存在と、OAジャーナルの存在を下支えともいえるAPCの高騰です。それらに加え速やかな解決が求められているのが、OAジャーナルの長期保存という課題です。

これに対し、大きな動きとして捉えられるきっかけとなったのが、2020年8月27日付でプレプリントサーバarXivに初版公開された文献です。なお、現時点ではVersion4に改訂がなされています。

プレプリントが指摘した調査とその結果

問題提起となったプレプリントは、フィンランド・ハンケン経済大学のMikael Laakso氏ら3人の著者による、“Open is not forever: a study of vanished open access journals”です。タイトルからもわかるようにこの文献が指摘したのは、OAジャーナルが次々消滅しているというというものでした。著者はOAジャーナルの消滅現象について主に次のような調査、分析を行っています。

①消滅したOAジャーナルの誌数
たとえば、Directory of Open Access Journals(DOAJ)に対し、2010年~2012年、2012年~2014年、2014年~2019年といったように異なる数年単位のデータベースレコードを横断的にチェックしたところ、データベースから消滅しているOAジャーナルの数は174誌に上ることが分かりました。ただし、今回の調査で消滅前に数年間動きがなくなっている状態になることがわかっていて、それを加味すると実際に消滅しているOAジャーナルの数は、今回特定した174誌よりも相当数多いのではないかと考えられるという報告もしています。

②消滅した時期
上記①で検証したOAジャーナルについて、Internet Archive(IA)のWayback Machineを使用したアクセスによって入手したISSN、設立年、最終発行年などから情報消滅時期を特定し、消滅までどのような経過を辿ったのかも併せて報告しています。消滅時期は2010年以降が多く、2010年~2014年の5年間が特に多かったとしています。最終刊行から消滅までは全体の1/3が1年以内、3/4が5年以内、ジャーナルの発行期間は平均6年強で、最終発行から2年間はアクセス可能の時期があるとしています。この計8年という期間と2009年~2019年の10年間でOAジャーナル数が約3倍になっていることを考えると、消滅待ちのような状態になっているOAジャーナルがあるのではないかと指摘しています。今回の調査中に、アクセスこそできたが近く消滅のリスクがある という状態のOAジャーナルが約900見つかったとも報告しています。

③消滅したOAジャーナルの特徴
さらに①で検証したOAジャーナルについて、オンライン上で入手できる国、言語、所属といった情報から消滅したOAジャーナルの特徴を分析しています。消滅したOAジャーナルの学問分野では、その約半数が社会科学分野と人文科学分野に多くみられたものの、他の分野にも広範囲にみられるとしています。また、地理的な特徴として、北米地域と南アジア地域で他の地域に比べて、現在も刊行が続いているOAジャーナルよりも消滅OAジャーナルの割合が高くなっていることを挙げています。さらに消滅OAジャーナルの所属は、その半数が学術団体や大学などの研究機関であったとしています。

これらの結果により、そもそもそういった機関が積極的にOAジャーナルを取り入れてきたという背景があるにも関わらず、予算面で難しい局面にあったこととの関連性を指摘しています。

長期保存に対する動き

紙媒体の学術雑誌の時代であれば、複写という形で物理的に保存しておくことが可能でしたし、多くの図書館がその役割を担っていました。しかし電子ジャーナル、OAが大きな流れになる中では、保存はどこの誰がどのような方法で担う責任があるのでしょうか。大規模なジャーナルや確立された出版社では、自分たちのコンテンツ保存へ投資力もあり、その意識もある程度高いと想像され、実際に成功しています。問題になるのは小規模なジャーナル、投資に余力がないジャーナルでした。

これらの問題に、現在はProject JASPER が進行中です。Project JASPERとは、OAジャーナル保存プロジェクトとして2021年に立ち上げられたプロジェクトで、現状フェーズ1の成果が公開されています。

そしてその前年に発表されたのが、DOAJ、CLOCLSS、Internet Archive、Keepers Registry、Public Knowledge Projectの5組織によるプロジェクトです。これは、小規模のダイヤモンドOAジャーナル(APCを徴収しないOAジャーナル)に対して、手頃なアーカイビング手段の提供に加え、保存問題に取り組むことの重要性について、出版社や編集者の意識向上に取り組むというものでした。このコラボレーションのきっかけとなり、OAジャーナルの長期保存という課題を世間に知らしめたのが、先のプレプリントだったのです。

今すぐ取り組むべき大きな課題に対して、プレプリント公開のわずか2カ月後に発表されたというイニシアティブは、これからの学術分野の研究者に対し、大きな意味をもたらしたと言えるでしょう。

参考文献

DOAJ DOAJ to lead a collaboration to improve the preservation of open access journals
JASPER – preserving open access journals forever
Laakso, Mikael; Matthias, Lisa; Jahn, Najko. Open is not forever: a study of vanished open access journals.

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