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ハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)を見分けるポイント

論文掲載料を不当に得ることを目的とした悪質なジャーナルは、ハゲタカジャーナルだけではありません。実在のジャーナルになりすまして論文掲載料をだまし取ろうとするハイジャックジャーナル(クローンジャーナル)にも注意が必要です。ハイジャックジャーナルは実在する正当なジャーナルの名を騙り、実際のホームページを模倣したクローンサイトを作成するなど、さまざまな方法で論文の著者を陥れようとします。その状況と特徴を解説し、誤ってハイジャックジャーナルに論文を投稿してしまわないためのポイントをご紹介します。

ハイジャックジャーナルの状況

2023年、ベルリン自由大学の研究者Anna Abalkina氏は、Elsevier社が運営する学術雑誌記事の書誌データベースScopusの中にどれくらいのハイジャックジャーナルが侵入しているか調査を行いました。調査の結果、2013年から2023年9月までに少なくとも67誌ものハイジャックジャーナルがScopusに含まれていたことが分かりました。そのうち許可されていないインデックスを作成していたのは33誌、ホームページのリンクを侵害していたのは23誌、その両方の侵害行為を行っていたのは11誌あったとのことです。

また、同氏はWHO(世界保健機関)が作成したCOVID-19研究データベース「WHO COVID-19 Research Database」においても、3誌のハイジャックジャーナルから383本もの論文がインデックスされていることを明らかにしました。この3誌もやはりScopusによって索引付けされていましたが、現在はScopus側で削除されています。

ハイジャックジャーナルは、大手学術出版社や世界的な機関の目をかいくぐってデータベースに掲載されてしまうことからも、その見抜きにくさと危険性を窺い知ることができます。

ハイジャックジャーナルの特徴

ハイジャックジャーナルは、正当なジャーナルを精巧に真似たクローンサイトや、複製したメタデータによるアーカイブを作成し、論文の著者である研究者やデータベースの運営企業などを欺きます。掲載されているURLにリンク切れが多い場合は、元サイトから複製された情報の可能性があります。 また、ハイジャックジャーナルは規模の小さいジャーナルやマイナーな言語(特に英語以外の言語)のジャーナルなどを標的にします。紙媒体専門のジャーナルも、公式ホームページがないことから乗っ取られやすいといえます。ハイジャックジャーナルに投稿した論文は査読なしで掲載されることが多いほか、APCを支払った後に担当者と連絡が取れなくなり、掲載されないままになることもあります。

論文の掲載料を不当に得ることを目的としているため、ハイジャックジャーナルは不自然に広い分野を対象としていたり、電話やメールなどで無差別に論文投稿の勧誘をしたりします。「出版を確約する」といった誘い文句や、料金や査読プロセスについての説明が曖昧といった特徴もあるので注意しましょう。

こういった悪質なジャーナルに論文を掲載してしまうと、研究者自身の信頼性に悪影響を及ぼします。査読が行われない、質の低いジャーナルに掲載されたことは業績になるどころか、むしろ研究者の評価と出版歴にとってマイナスです。業績の水増しととらえかねられませんし、ハイジャックジャーナルに支払った論文掲載料は、ほかの研究者をだますための資金として使われることになってしまうからです。もし、クローンジャーナルだと気付かずに投稿してしまったとしても、時間や費用などの貴重なリソースを無駄にすることになってしまいます。

研究者個人だけでなく、ハイジャックジャーナルは学術界全体に対しても損失を与える存在です。査読を受けていない低品質の論文が増えることで、研究成果や学術文献に対する信頼性が損なわれます。特に、医学分野や健康分野において査読を受けない論文が公開されることは、一般の人々にとっても有害な影響をもたらすおそれがあります。

ハイジャックジャーナルの見分け方

論文を意図せずハイジャックジャーナルに投稿してしまわないためにも、ハイジャックジャーナルの見分け方を知り、投稿前に確かめることが大切です。見分け方のポイントをいくつか紹介します。

悪質なジャーナルのリストをチェックする

論文掲載料を不当に搾取しようとする悪質なジャーナルについてまとめたリストがあります。投稿する前に、これらのリストをチェックするようにしましょう。

Retraction Watch Hijacked Journals Checker
……Anna Abalkina氏がRetraction Watch と提携して作成したハイジャックジャーナルのリストです。ハイジャックされたジャーナルのタイトル、URL、ISSNがリスト化されており、オリジナルのジャーナルのURLも併記されています。

Predatory Reports
……医学雑誌および学術雑誌に関する関連情報を収集している学術分析会社Cabellが提供する、プレダトリージャーナルのリストです。

Scholarlyoa — Hijacked Journals
……2019年にStef Brezgov氏が作成したハイジャックジャーナルのリストです。正規版のジャーナルのURLとともに紹介されています。

いくつかの検索エンジンで該当ジャーナルを検索する

ハイジャックジャーナルのなかには、検索エンジンの順位が正当なジャーナルよりも上位に表示されるものもあります。複数の検索エンジンで検索し、外観が異なる複数のサイトがないか、ドメイン名が出版社のWebサイトと同じかなどを確認しましょう。

ジャーナルに公開されている論文のDOIやORCID、論文の質を確認する

ジャーナルのサイトを確認し、掲載論文のDOIや論文の著者・編集委員のORCIDが、信頼できる他のデータベースと一致するかをチェックしましょう。また、ハイジャックジャーナルでは、査読が行われず品質の低い論文が掲載されている可能性があります。実際に公開されている論文に目を通し、品質が保たれているかを確認するのもよいでしょう。

ハイジャックジャーナルに対する知識を持つことが重要

ハイジャックジャーナルやハゲタカジャーナルは、研究成果を早く世に広めたい、業績を増やしたいという研究者たちの思いにつけこみます。査読プロセスが簡素化されていたり、そもそも査読がなく出版が確約されていたりするため、研究者にとっては迅速に出版できる魅力的なジャーナルに見えてしまうかもしれません。しかし、これらの不正なジャーナルの存在を知り、悪用されることで研究者自身や社会全体にとってどのような問題が生じるか、知識を持つことが重要です。

参考文献

Challenges posed by hijacked journals in Scopus — Anna Abalkina

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