『科学技術指標2026』から見る日本の科学技術の現状
文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、毎年8月に「科学技術指標」を公開しています。日本および主要国の科学技術活動について分析した資料であり、5つのカテゴリーに分類される約160の指標群でまとめられています※1。
本記事では、『科学技術指標2026』で報告されている日本の研究開発費や研究者数、アウトプットとしての論文数、特許数や各産業の貿易収支などの動向について解説します。
研究開発費、研究者数、研究開発のアウトプットの順位はいずれも前年から大きな変動はなし
日本の科学技術研究の動向は、ほとんどの指標において前年の『科学技術指標2025』とほぼ同じ順位でした。一方で、主要国の順位には変化もあり、特に中国は目覚ましい躍進を遂げています。研究開発費、研究開発人材および若手研究者の動向、研究開発のアウトプット(論文数)について解説します※1。
日本の研究開発費は3位、中国が米国を抜いて1位に
研究開発費の主要国における順位を見ると、日本は前年と同じ3位でした。企業、大学、公的機関の各部門の合計で22.1兆円となっており、前年の20.4兆円から微増しています。近年、研究開発費は増加傾向にあり、2020年から2024年にかけて企業部門は26%、大学部門は14%増加しています※1。
主要国の動向としては、これまで長らく研究開発費のトップであった米国を抜いて、中国が1位となりました。部門別に見ると、大学部門ではまだ米国が1位であるものの、2位の中国が迫っており、企業部門では中国が米国を上回りました※1。
研究開発人材は横ばい傾向だが若手研究者数は増加
研究開発人材(研究者数)の動向を見ると、日本は70.3万人で3位でした。主要国の順位にも変動はなく、中国が1位、米国が2位となっています。日本の研究者数は、企業部門・大学部門ともに横ばい傾向にありますが、女性研究者数が着実に増加していることも報告されています。全体に占める女性研究者の割合は19.0%とまだ低いものの、女性研究者の新規採用率は、直近では25.6%となっており、特に企業における採用割合が増加しています※1。
また、大学院の修士課程および博士課程に入学する者の数は、近年増加傾向にあります。2025年度における大学院修士課程の入学者数は8.0万人(前年度比+1.8%)、大学院博士課程の入学者数は1.6万人(前年度比+3.0%)でした。基礎研究を担う若手研究者数の増加傾向は、将来的な研究開発人材の増加に資する可能性があります※1。
論文数に大きな変化はないが、増減傾向は国によって明暗が分かれる
『科学技術指標2026』では、2022~2024年の論文数をもとに計算した研究開発のアウトプットとして、主要国の分数カウント法に基づく論文数、Top10%補正およびTop1%補正論文が掲載されています※1。
2022~2024年平均で見た日本の論文数は66,214本で、主要国中の順位は前年と変わらず5位でした。前年は70,225本、前々年は72,241本だったことから、論文数自体は大幅に減少していることがうかがえます※1。
主要国の順位にも変動はありませんが、論文数の増減傾向は明暗が分かれました。1位の中国は672,467本(前年は599,435本)、3位のインドは97,045本(前年は91,997本)と大幅に増えている一方で、2位の米国は274,295本(前年は289,791本)、4位のドイツは68,399本(前年は72,762本)と、日本と同じく減少傾向にあります※1。
該当年の年末時点における論文の被引用数に基づいて補正を加えた補正論文数も、日本を含む主要国の順位は概ね変化していません。2022~2024年平均で見た日本のTop10%補正論文数は3,163本で13位、Top1%補正論文は271本で第12位でした※1。
主要国の順位を見ると、Top10%補正論文数において韓国がカナダを抜いて8位に上昇したほかは、順位の変動はありませんでした。ほとんどの国で補正論文数自体が減少する一方で、中国・韓国は増加しており、科学技術分野におけるアジア勢の躍進がうかがえます※1。
研究トピックを新規性と研究規模の2軸で4類型に分類したところ、中国と韓国では大規模かつ新規トピックの研究の割合が大きかったことも報告されています。Top10%補正論文数における研究トピック4類型の構成を分析したところ、日本は他の主要国と比べて「継続」トピックの研究の順位が相対的に高くなっていることがわかりました。既存の研究基盤をもとに継続されている研究トピックが強い反面、世界的なトレンドや新規分野への進出の遅れが課題であるといえます※1。
特許数は日本が引き続き1位、中国がシェアを伸ばす
日本の特許(パテントファミリー)数は、6.4万件で世界第1位でした。順位は約20年前から維持していますが、世界シェアでみると減少傾向にあります。2位は引き続き米国のままですが、今回の報告では中国が3位に上昇しており、特許数および世界シェアが急激に増加していることがわかります。特に、「一般機器」「電気工学」「情報通信技術」の分野では、中国のシェアが拡大するのに伴い、日本のシェアは縮小しています※1。
ミディアムハイテクノロジー産業貿易収支比では中国が上回り日本は2位に
主要国における産業貿易の収支比のうち、「化学品と化学製品」「電気機器」「機械器具」「自動車」「その他輸送」などから成るミディアムハイテクノロジー産業において、これまで日本は主要国中1位を維持していましたが、今回の報告では中国が上回り、日本は2位となりました。特に、「自動車」産業において中国の輸出額が大きく伸びていました※1。
なお、「医薬品」「電子機器」「航空・宇宙」から成るハイテクノロジー産業では、1位の韓国が大きく躍進しており、日本は前年と変わらず6位となっています※1。
研究開発費や若手研究者の増加傾向などに期待が高まる
『科学技術指標2026』の報告内容をまとめると、ほとんどの部門において日本の順位に大きな変動はなかったといえます。ただし、貿易収支比についてはミディアムハイテクノロジー産業で順位を落とすなど、中国をはじめとするアジア勢の躍進に日本は追従できていないことがうかがえます。一方で、2020年代以降の研究開発費や若手研究者の増加傾向など、ポジティブな報告も上がっており、来年以降の動向にも期待が高まります※1。
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