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PubPeerと出版後査読の重要性

2014年に発表された小保方晴子氏のSTAP細胞関連の論文が、データの捏造が発覚したことを受けて学術雑誌から取り下げられるという事態が発生し、世間を騒がせました。この事例は、従来の論査読システムではデータ作成などにおける不正が、十分に検出できないという弱点を露呈するものとなりました。同時に、すでに運営の始まっていたPubPeerというウェブサイト上の出版後査読システムが、その論文におけるデータ捏造などを指摘するのに大きな効力を発揮したという経緯があります。

出版後査読システムPubPeer の概要

PubPeerは、2012年にフランス国立科学研究センターの神経科学者ブランドン・ステルらによって創設された出版後査読を行うためのウェブサイトであり、英語を言語とした無料サイトです。登録を行えば、学術誌に出版された論文についての議論や質疑応答にウェブ上で参加できるシステムとなっています。一方、どんな人でも登録できるという訳ではなく、登録する権利を持っているのは、過去に学術雑誌に論文を掲載した第一著者または最後著者のみとなっています。実際、登録の際には学術誌に出版した論文のDOI(デジタルオブジェクト識別子)、PubMed ID、またはarXiv ID が必要です。そのため、PubPeerを利用した論文関連の議論や質疑応答に参加できるのは、必然的に論文発表経験を持つ研究者や研究指導者などに限られます。PubPeer上に投稿されたコメントは、サイト運営者のみがコメント投稿者の個人情報を特定できますが、閲覧者にはコメントした研究者の個人情報は開示されず、匿名で表示されるシステムとなっています。

また、投稿されたコメントは即時掲載されず、一度運営者の手で精査を受け、採択された場合に限り、PubPeerサイト上に表示され、それと同時にそのコメントの対象となった論文の著者にも通知されます。

出版後査読の将来的可能性

PubPeerを用いた論文の出版後査読は、上述の通り実質的な研究業績のある研究者らによって行われるものですので、出版前の査読では十分に議論できなかったような細かい部分に関しても、多岐の分野に渡る研究者から様々な意見が述べられ、ウェブ上で活発かつレベルの高い議論を交わすことが可能となります。さらに、データの捏造や盗用などといった不正に関しても、匿名コメント制であることを利用して、第三者が鋭く指摘できるようになります。、論文作成の際に著者サイドによる不正行為を、今後減少させることにも大いに貢献するものと考えられます。

学生や大学院生らも交えて若い世代からも活発な議論を

他方で、PubPeerを利用したウェブ上での議論や質疑応答などに参加できるのが、論文発表経験のある研究者らに限られていることから、これから研究者になることを志す若者、特にまだ論文発表経験のない学生や大学院生などでは、こういった高度な議論に参加する機会が得られない、という側面もあるでしょう。こうした側面を解消するには、ワンテンポ置いたやり方にはなるかもしれませんが、掲載されている論文に対して質問や意見を述べたいと希望している学生から、その研究室の指導教官らが意見を聞き、代弁する形でコメントを投稿するなどといった配慮をすることが望ましいです。あるいは、研究室などで定期的にゼミなどを開き、学術誌に掲載されている論文に対して学生らが各々意見を述べ、その中で重要と思われる意見を指導教官が取り上げて、PubPeer上に投稿するという方法で行えば、より幅広く若者たちからの意見をウェブサイト上に反映させることが可能となるでしょう。

現状では登録の敷居が高いので、どのようにクリアして、より幅広い世代層からの掲載論文に対する意見を沢山反映できるようにするかが、今後のPubPeerなどを利用した出版後査読に関する重要課題だと思われます。

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