査読者に報酬を支払う新ジャーナルは定着するか
「査読は無償」に新風を吹き込む
ジャーナルに投稿された論文のほとんどは、同業の専門家の査読(peer review)をもとに、編集者が掲載の可否を判断します。この査読は無償で行われています。そのため、「査読のために、自分の時間が奪われている」と考える研究者がいるのも事実です。査読依頼を断ることもできますが、メジャージャーナルからの依頼となると、人情的にも断りにくいのではないでしょうか。
この「査読は無償」という古くからの伝統に新風を吹き込もうとするジャーナルが現れました。カリフォルニア大学出版局が、2015年3月に創刊予定としているオープンアクセスジャーナル『Collabra』です。『Collabra』は「査読者や編集者に報酬を支払う」と表明しています。この方法は、論文掲載プロセスの新しいモデルとなりうるのでしょうか。
査読の報酬は研究コミュニティに還元
『Collabra』は、一般的なオープンアクセスジャーナルと同様に、投稿者が掲載費用(APC: article processing charge)を負担します。『Collabra』のAPCは875ドル。このうち250ドルを、査読者や編集者に支払うことで、APCの一部を研究者コミュニティに還元するとしています。投稿者は論文掲載時に875ドルを負担します(リジェクトの場合、費用負担はありません)が、査読者へは論文の掲載可否に関わらず支払われます。そのため、1回の査読で250ドルを分配するのではなく、一定期間における論文総掲載数に応じて分配されます。例えば、論文が10本投稿されたときに、全部掲載されれば2500ドル(250ドル×10本)、2本だけ掲載されれば500ドル(250ドル×2本)が、10本の論文に関わった全ての査読者や編集者に、均等に分配されます。
この仕組みには、いくつかのメリットがあります。まず、査読によって得られる報酬を、研究費用や論文購入費、APCに使うことで、よりよい研究環境が構築されると期待できます。
また、報酬が支払われることで、査読者に「重要な仕事である」という意識付けができるかもしれません。自分の時間が奪われるという理由で、無償である査読の依頼を断る研究者は少なくなく、ジャーナル出版社は慢性的な査読者不足に悩まされています。査読者不足が解決されれば、よりスピーディーに論文が掲載されるようになるため、論文投稿者にとっても大きなメリットであると言えます。
しかし、『Collabra』の取り組みに対して、全く批判がないわけではありません。受け取る報酬は論文採用数によって変動するため、実際の報酬額が不明瞭であると見なされるかもしれません。また、論文掲載率が上がれば分配される報酬額は増えるシステムのため、査読にバイアスがかかる可能性はありえます。さらに、報酬目当てに積極的に査読を請け負う「査読ラボ」が生まれるのではないか、という意見もあります。
研究環境の変化に合わせて査読も変わるか
「ジャーナルの信頼性は、無償の査読によって成り立ってきた」という歴史があるのは事実です。しかし、限られた研究資金や巨大化する研究規模、研究分野の細分化、人材不足など、研究を取り巻く環境は大きく変化しています。研究環境が変化するなかで、『Collabra』の新しい取り組みは研究者に受け入れられるのか、今後目が離せません。