平成時代に引用された日本の論文20選~令和へ続く日本の医学研究~
1989年に始まり2019年4月に終わりを迎えた平成。平成時代はインターネットの本格的な普及が始まり、医学研究にも大きな影響を与えました。特に、世界各国の論文をパソコン一台で閲覧できるようになったことで、医学論文執筆での引用論文収集にかかる時間とコストの大幅な短縮が可能になりました。
そこで今回、クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社は平成時代30年間に最も多く引用された日本の論文20選を発表しました。どのような論文がトップ20に躍り出たのか、そこから見える今後の課題について考えてみましょう。
最も多く引用された日本の論文とは?
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社の分析によると、平成時代に世界で発表された論文数は3000万報に上ります。そのうち日本の論文は約200万報で全世界の論文の6.8%占めています。
同社は日本の論文の中で引用数の多い上位20報を発表しましたが、その第1位となったのは首都大学東京の田村浩一郎氏らによる「MEGA5: Molecular Evolutionary Genetics Analysis Using Maximum Likelihood, Evolutionary Distance, and Maximum Parsimony Methods」です。バイオインフォマティクスツール(分子系統解析ソフトウエアMEGA)の開発に関する同報は2011年の発表以来これまでに3万回もの引用実績があり、世界に大きな影響を与えた発表であったことがわかります。
また、第2位は名城大学の飯島澄男氏による「HELICAL MICROTUBULES OF GRAPHITIC CARBON」で、カーボンナノチューブの発見に関する論文です。1991年に発表された同報は2万9千回以上の引用実績があります。
そして、第3位は2012年にノーベル医学生理学賞を受賞したことでも話題となった京都大学の山中伸弥氏らによる「Induction of pluripotent stem cells from mouse embryonic and adult fibroblast cultures by defined factors」で、iPS細胞作製に関する論文です。引用数は2006年の発表以来1万2千回にも上ります。また、山中氏らのiPS細胞のうちヒトiPS細胞の作製に絞った内容の「Induction of pluripotent stem cells from adult human fibroblasts by defined factors」も引用数第4位にランクインしています。
上位にランクインした20本の論文のうち、田村浩一郎氏によるものMEGA開発に関する論文が4報、山中伸弥氏によるiPS細胞に関する論文が2本含まれており、これらの研究がいかに世界に影響を与えた優れた研究であるかを物語っています。
また、その他にもプロブスカイト太陽電池、ERFG遺伝子変異を有する肺がん治療薬、可視光線で働く光触媒、進化における自然選択の統計手法などに関する論文が含まれており、日本の研究が物理、医学、自然科学など様々な分野に多大な貢献をなしていることがうかがえます。
引用論文の時代的な変化とは?
クラリベイト・アナリティクス・ジャパン株式会社による分析では、引用数が多い論文は平成30年間のみを見ても、その内容だけでなく属性に変化があることがわかりました。
最も注目すべき点は、単独著者による論文が減少したことです。近年では、引用数の多い論文は専ら複数の著者によるものであり、100人を超える著者による論文も多数あります。また、国を超えて共同で発行された論文が平成初期と比べ激増していることも大きな特徴です。
このことから、近年の医学研究は単独研究者ではなく、複数の研究者が国境を越えて共同で取り組む傾向にあることがわかりました。
医学論文における令和への課題
研究や論文執筆の国際共同化が進む昨今、日本の研究者も積極的に海外の機関と連携して成果を上げていくことが望まれるでしょう。属性を超えた様々な分野の研究者が共に研究に挑んでいくことも必要と考えられます。
世界に影響を与えてきた平成時代の日本の医学研究を令和へ引き継ぐためには、日本の技術を生かしつつ、よりグローバルな視野で成果を上げられるような研究の実践が必要です。インターネットの利便性を活かして常に世界に向けてアンテナを張り、最新の情報を入手しながら良い点を取り入れつつ研究デザインをしていくとよいでしょう。