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統計的有意性とは?p値が医療に及ぼす影響

「エビデンス」や「因果関係」が確立した治療や検査が強く認められる現在の医療において、統計学的な有意性を示す「p値」は非常に重要な指標です。「p値」はある事柄の信頼性を図るための指標であり、医学論文執筆にあたっての実験だけでなく治験データの評価などにも用いられてきました。

しかしここ数年、医療分野においてこの「p値」への過信が思わぬ盲点となっていることが問題視されるようになっています。「p値」の使用を禁止する医学系雑誌もあり、これまで統計的に有意でないとされていきた実験データの再検討を行って新たな解釈を発表する論文の多く見られるほど…。 そこで今回は、これまで絶対的なエビデンスの指標とされていきた「p値」がはらむ問題点と今後の展望を詳しく解説します。

「p値」とは?

「p値」とは、ある実験を繰り返し行い、そこから得られた結果がどの程度整合しているかを示した指標です。「p値」は0~1の範囲の数値であり、0.05未満を「有意差あり」と考えます。つまりこれは、まったく同じ条件である実験を再度行ったところ、5%の確率で同じ結果が得られるということを現しています。

現在の医学界では、この「p値」の値によって新薬や新たな治療法の採用、論文の信頼性などが決まっているのです。

「p値」に依存しすぎた結果…

近年では、このように「p値」に依存し、「p値」の値から「有意性なし」とされたものの容赦ない切り捨てによって、本来は有意に治療効果があるものや治療に影響を与える因子などが見落とされる危険が示唆されています。

これは「p値」が、単なる治療効果あり/なしだけの判断に限らず治療効果自体の大きさ、目立った治療効果以外の副次的な作用、再び同じ結果を出すことができる再現性などを無視して算出されているためと考えられます。

つまり、「p値」は統計的な有意性を評価する上では非常に有用な指標となりますが、医療の世界に於いて、それはあくまで一つの視点に過ぎないということです。新薬や新たな治療法、発病因子などの研究データを解析し、新たな仮説を立てるには統計的有意性だけでなく、臨床的、実際的な諸条件全てを加味して総合的に判断を下すことが大切なのです。

「p値」を使わないとする動きも…

このような背景から、Basic and Applied Social Psychology誌は「p値」の使用を禁止し、2019年3月21号のNatureでは複数の統計学者が統計的有意性という言葉を使わないよう提唱しています。また、この提案には800人以上の統計学者が賛同の意を示しているのです。

もちろん、これまで深く根付いてきた「p値」の値による取捨択一を変えていくことには様々な問題もあります。しかし、「p値」の値のみを重視するあまり医学的に価値のある発見が見過ごされないよう「p値」に対して常に懐疑的な姿勢を持ち、他の統計解析も取り入れながら、よりよい考察ができるよう多くの切り口から研究データを分析していくことが大切なのです。

これまで医学、化学、物理学など様々な分野の統計指標として用いられてきた「p値」ですが、医学分野では臨床的な要因を加味せずその数値のみで有意性を決定する手法を取ることで、医学的に有益な発見を見逃す可能性があると危惧されています。

最近では「p値」に依存しないデータ分析を課す雑誌も登場しており、多くの統計学者が「p値」重視の在り方に異議を唱えています。医学的な研究を行う際には、「p値」のみに捕らわれず、治療効果の大きさや統計対象外の効果なども加味して総合的に解析を行って行くことが重要です。そのために、日頃から研究に対する目的や背景などをしっかり意識して取り組んでいくようにしましょう。

参考文献

natureasia.com 統計的有意性を巡る重要な論争

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります