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結果を出す前に論文掲載の可否が決定!Registered Reportsの有効利用を

研究というものは、最終的に正式な学術論文として公表され、全世界でその成果を共有すべきであることは言うまでもない事ですが、実際に論文を完成させるまでの道のりは遠いです。加えて、折角良い研究計画を立てて進めたにもかかわらず、自分達の理想とする結果が出せなかったために出版社からリジェクトされる、あるいは論文化そのものを断念してしまうケースが非常に多いのが現状です。そこで最近注目を受けるようになってきた論文出版システムがRegistered Reports(査読付き事前登録研究論文)であり、例え理想とする結果が出なくても、研究のデザインや方法などが優れていれば掲載を受け入れるというシステムです。

研究成果の論文化に当たっての様々な障壁

基本的に、研究を進めて行って得られたデータはもれなく解析し、それらの解析結果を全て総合した形でストーリーを作らねばなりません。しかしながら、研究者たちはそれぞれが明確な目的というものを持っており、その目的に合った結果が得られないと論文を書き始める事が出来ない、という事態がしばしばあります。特に、外部資金をもらって進めているような研究の場合、その助成機関の意図によく合った研究結果が出ないとなおさら論文化しにくいことが多いです。

簡単に説明すると、例えばある事を明らかにするために、自分達で新規の研究手法をデザインし、その手法に従って進めて行ったが、実際に得られた結果全てをまとめたら、その手法では「その事を明らかにするという目的には適さない事が明らかになった」、という場合などが良い一例です。そうなった場合、研究者はあえてそのネガティブな結論で論文を投稿するか、あるいはその手法を論文化するのを諦め、別の手法をデザインし直すかの選択に迫られてしまいます。ネガティブな結論でストーリーを書いて投稿した場合、従来の審査方法だとリジェクトされてしまう事が多いですし、別の手法を再デザインするとなるとさらに厄介であるため、結果的に研究成果の論文化が大幅に遅延したり、永久に実現できなくなったりしてしまいます。

結果がうまく出せなくても研究デザインで評価する取り組み

昨今注目を浴びているのが研究論文のRegistered Reports化であり、現在色々な分野の約200の学術雑誌で、Registered Reportsの受け入れシステムを導入しています。Registered Reportsは、まだ結果が出ていない(あるいは全部出揃っていない)状態での論文審査システムであり、各学術誌のRegistered Reports部門に対し、著者らは自分達の研究デザイン(目的・手法など)を分かりやすく記述し、その部門に原稿として提出し編集部の判断を仰ぎます。編集部のほうで、現在進行中のその研究がデザイン的に画期的で、その学術雑誌で取り扱う研究内容としてふさわしいと言えるのかどうかについて、査読者も交えて慎重に審査します。その論文原稿が審査を無事通過すれば、その研究者らの研究デザインはその雑誌に「受け入れられた」という扱いになり、以後はその研究を完結させて本式の論文を書き上げさえすれば、結果の如何にかかわらずアクセプトを約束するというルールなのです。

Registered Reportsはなるべく早期に本式論文化をすることが理想

Registered Reportsの受け入れを導入しているNature Research発行のNature Human Behaviourという学術雑誌には、現在2報のRegistered Reportが掲載されています。いずれも研究テーマ名とAbstract及び研究プロトコールが記述された形ですでに公表されています。

このように、Registered Reports部門に受理されると、ただちにその研究テーマや研究デザインなどが全世界に向けて公表される事になるのです。やはりここで注意しなければならない点は、その研究チームが投稿したRegistered Reportというものが、他の競合研究チームなどに模倣されてしまう可能性が発生してしまう事です。そのため、極端な例えにはなってしまいますが、最初にRegistered Reportを掲載したチームの研究内容を、それを読んで真似した競合研究チームに先んじられて別な雑誌に本式論文として発表されてしまうリスクがあるのです。そうなってしまうと、いくら自分達の論文のアクセプトが約束されているとはいえ、他の競合研究チームとほとんど同じような内容の論文を、自分達のほうが後になってから本式論文として投稿することになりかねません。

学問的にみて、同じ内容の論文が2報も存在するという状況は好ましくありません。あくまでも、先にRegistered Reportを発表したチームのほうが論文化を完結させることが理想だと思います。そのためにも、Registered Reportを発表した後は、出来るだけ迅速にデータ収集を進め、長い歳月を置く事なく早めに本式論文化してしまう事が重要でしょう。重要な研究テーマであればあるほど競合研究チームが沢山発生するのは当然の事ですので、Registered Reportに掲載できたからといって気を抜かず、早めに論文を「完成」させる努力が必要であることは言うまでもないでしょう。

参考文献

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 10 (2019) 「研究のプロセスも高く評価する論文形式」

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