調査から読み解く博士課程学生が抱える問題と今後の課題とは?
博士課程ともなると「学生」といえども、年齢的にはいわゆるモラトリアムの時期を越えているケースが大半。それ故、博士課程の学生は経済的・社会的にこれまでの学生生活とは異なる様々な問題を抱えているケースも少なくありません。研究などの学術活動に支障を来している学生がいるのも現状です。
そこで今回は、博士課程の学生や博士号取得者を対象として調査を元に、現在彼らが直面している問題と今後の課題について詳しく解説します。
博士課程の学生が抱える問題~調査結果から~
博士課程に在籍する世界各国の学生6300名を対象とした調査がNatureによって行われ、その結果が公表されました。
調査結果によれば、学生の約75%は自身が博士課程進学への道を選んだことに満足していると回答し、71%が十分な研究生活を送っているとのことです。研究に費やす時間が週に41~50時間、51~60時間と回答した学生はそれぞれ27%、25%に上ったことからも、多忙な毎日の中、研究にやりがいや喜びを見出している学生が多いことが伺えます。
しかしその一方で、21%の学生が指導教官や他の学生、スタッフなどからいじめ、差別、ハラスメントを受けたことがあると回答しました。また、36%は研究活動を原因とする不安障害や抑うつ症で相談をしたことがあると回答。様々な悩みを抱えている学生も多いことが分かりました。さらに、経済的な自立を図るため研究のほかに仕事を持っていると答えた学生は20%を占め、経済的に困窮し学生ローンに手を出さざるを得ないケースも多いとのことです。
このような結果から、現代の博士課程の学生は研究生活自体には満足しているものの、多忙さや周囲からの心無い仕打ち、経済的問題などによりメンタルヘルスに異常を来しているケースが少なくないことが分かりました。
博士課程の理想的なキャリア・パスとは?
文部科学省は博士号取得者を対象にキャリア・パスに関連した調査を実施しました。
その調査結果によれば、現在の大学院は未だ「知の創造」を行うにはふさわしくないシステムが多く、大学院自体も改革を求めたいとの声が上がっています。
また、不況が続く日本においては研究に専念できるよう経済的支援が必要であるとの声も目立ちました。日本では博士課程を卒業してから一般企業に就職すると、勤続年数の関係から同級生よりも待遇が悪いのが一般的です。そのため、優秀な学生が博士課程進学を断念するケースも少なくありません。
現在、博士号取得者の活躍の場は多様化しています。一人でも多くの優秀な科学者を輩出するには、大学院と産業界が連携したり、社会全体の博士号取得者の評価を高めたりすることによって、多くの学生が自身の望むキャリアを築いていけるような体制が必要となるでしょう。