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共同研究における利益相反(COI)の管理と開示

産学連携システムの発展に伴い、我が国においても大学や研究機関が民間企業などと手を組んで共同研究を行う機会が非常に多くなりました。研究というものがアカデミックな領域だけでなく、一般社会へ産学連携を通じて大きく貢献するのは確かに素晴らしいことですが、他方で大学・研究機関などが民間企業をはじめとした営利団体と強く癒着し、様々な不正が発覚していることも事実です。

今回は、そのような様々な不正を生じさせる要因となる研究者と資金提供者らの間の利益相反(Conflicts of Interest: COI)を、今後どのように管理し、的確に開示していくべきかについて論じたいと思います。

研究者と企業との間の利益相反がもたらす様々な弊害

民間企業からの資金提供というものを研究者らが受けている場合、よく見られる弊害は企業側に有利な結果及び結論だけ報告して、逆に企業に不利益が予想されるような結果等は報告しないという不正です。我が国で2013年に問題となったディオバン臨床研究不正事件はその典型です。また、研究者と企業との間で金銭などの不正な授受が発生することもしばしばあり、さらには関係する研究者がその企業の未公開株の提供を裏で受けて、利益を得るなどといった癒着もみられます。

研究というものは、常に真実を明らかにし全世界に向けて正しく報告するべきものであるはずなのですが、このように資金提供者となる企業に一方的に研究者が利用される事によって、研究結果が歪められて発表され、果ては研究者と営利団体との間で深刻な腐敗が生じてしまうという構図が、近年表面化してきたのも紛れもない事実なのです。

ICMJEによるCOI開示の取り決め

研究者が企業と提携して行った研究を論文として発表する場合に備え、医学雑誌編集者国際委員会(International Committee of Medical Journal Editors: ICMJE)は、研究成果の論文化に際して研究者と営利団体との間に利益相反(COI)が無かったかどうかをより透明化することを目標に、論文投稿の際に様々なCOI関連の報告をすることを推奨しています。

主な申告義務項目は、誰が資金提供者となっているか、資金提供者が研究の遂行や論文の作成などに関与していたか、あるいは関係企業の寄付講座などが資金の提供先になっているかどうか等です。このような事項について、論文投稿時にICMJEの方針に従っている学術雑誌の規定に応じて、論文著者が漏れなく関連企業との間のCOI有無に関して報告することにより、研究者(研究チーム)と企業とが互いに干渉せずに独立して研究を行っていたと言えるのかどうかについて、より明確にすることができるでしょう。

研究者と読者の課題

民間企業との利益相反によって弊害や不祥事などが発生する事を未然に防ぐためには、まず研究者自身が提携相手となる企業に振り回されないようにする努力が必要不可欠です。まずは、共同研究の企画段階で相手企業の担当責任者と厳密に交渉し、研究で得られたデータは全て論文化して発表させてもらえるようにすることが重要です。この時に相手企業の担当者がその要求に対して強く難色を示すようであれば、その共同研究は不正なデータ操作を伴う虚偽の発表を強いられることに繋がり、後々大きな社会問題に発展しかねません。このような担当責任者がいるような企業との提携は止めたほうが良いでしょう。他には、不当な額の金銭のやり取りや、研究者に対する過剰な便宜の提供なども禁止し、研究そのものを明朗に行うことが大切です。そして、そういった取り決めは確実に文書化するなどして、研究が完全に終わるまで研究者と企業の間で確実に保管し、企業との間のCOI関連事項を当事者間できちんと管理して不測の事態に備えておくことが重要です。

また、色々な共同研究によって発表された論文を読む側の人も、論文投稿者がICMJEの規定に沿って報告したCOI関連の申告を的確に解釈し、その共同研究が果たして本当に民間企業との利益相反に影響されずに、信頼性の高い研究報告として機能しうるものなのかどうかを、自分の目で判断する力が必要となることは言うまでもありません。

COIの開示について、ICMJEの統一書式「Form for Disclosure of Potential Conflicts of Interest」を採用するジャーナルが増えております。 またElsevier雑誌社のformは下記に掲載されています。
Elsevier:Confl icts of Interest Statement

[COI開示の文例]
This study was funded by [企業名].
[該当する著者名] received honorarium from [企業名].
[著者名] are employees of [企業名]
This research is supported by grants from the JKL (JK01234).
The authors declare no conflicts of interest associated with this manuscript.
None of the authors has any conflicts of interest or any financial ties to disclose

参考文献

AMED 利益相反の開示と倫理
JAMS 論文発表を前提とした 臨床研究とCOI管理

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります