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論文撤回にもつながりかねない翻訳剽窃に注意

他の研究者による研究成果や論文を故意に流用するのは明らかな不正行為ですが、なかには意図せず剽窃や盗用を行ってしまい、トラブルになるケースもあります。万が一「翻訳剽窃」とみなされてしまうと、論文がリジェクトとなるだけでなく、一度掲載された論文を修正または撤回しなければならない事態に陥ってしまうおそれがあります。

自己剽窃と同様に翻訳剽窃にも注意が必要

翻訳剽窃とは、異言語で書かれた論文を翻訳し、引用元を表記せずに使用してしまうことです。和文の論文同士において剽窃に注意を払うのと同様に、他の言語で論文を執筆する場合も翻訳剽窃にならないよう注意しましょう。

特に、英文誌をはじめとする異言語のジャーナルに論文を投稿する場合には注意が必要です。同一の論文を翻訳してそのまま投稿することは、翻訳剽窃どころか二重出版にあたります。医学雑誌編集者国際委員会(ICMJE ; International Committee of Medical Journal Editors)のガイドラインにも、本質的に内容が同じである原稿を、同じ言語か異なる言語かにかかわらず複数の雑誌に投稿すべきではない旨が記載されています。

過去に自分が執筆したテキストであっても、そのまま他の論文に流用したり改変して再利用したりすることを自己剽窃(または自己盗用)といいます。テキストのみならず画像や図表、データなども同様で、自己剽窃は不正行為とみなされます。自分が行った研究であっても他者の先行研究と同様に扱い、適切に引用する必要があります。

翻訳剽窃は剽窃検知ツールで検知できるのか

科学技術振興機構(JST)はCrossrefと提携し、剽窃検知ツール「Similarity Check」を提供しています。このツールでは、データベースおよびWeb上にあるさまざまな文書と、剽窃が疑われる論文のテキストパターンマッチングを行います。分野やジャーナルの特性によって目安となる数値は異なりますが、テキストの類似率が高いと判定された場合には提出した論文は返却されます。日本だけでなく各国においても、CrossCheckなどの剽窃検知ツールを導入する学術ジャーナルが増えています。

しかし、現在の剽窃検知ツールの多くは同一言語間における類似性のチェックが主であり、翻訳された論文の剽窃チェックには対応していないのが現状です。テキストパターンマッチングの性質上、複数の言語にわたって類似性を検知するのは容易ではないからです。異言語間の剽窃検知に関する研究は進んでおり、ツールの利便性はますます進化していくと考えられますが、執筆時あるいは翻訳時から翻訳剽窃にならないよう細心の注意を払うことが大切です。

意図しない翻訳剽窃を避けるために

ロシア科学アカデミーが2020年8月に公開した報告書によれば、ロシア語以外の言語で書かれた発表済み論文をロシア語に翻訳し、あたかも自分の原著論文であるかのように発表する剽窃行為が横行しているという報告もあります。これは意図的に行われた翻訳剽窃ですが、意図せず翻訳剽窃を行ってしまうケースも少なくありません。

たとえば、日本語を母語とする研究者が英文で書かれた論文を参考にする場合に、本来の文意を損なうことをおそれて元のテキストをそのまま使ったり、他の研究者によってすでに翻訳されたテキストを流用したりしてしまうことがあります。引用符をつけて引用元を明記するか、自分なりの言い回しで要約またはパラフレーズする必要があります。

ほかにも、自分が過去に行った研究や自ら書いた論文を元に英文に翻訳し、他の論文に流用する場合もあります。流用したのがごく一部であったとしても、出典の明記または許可された二次出版であることの表示が必要です。

意図しない翻訳剽窃を避けるためには、まずは研究者自身が剽窃をはじめとする不正行為に対して認識を深める必要があります。不安がある場合は、異言語のジャーナルへの投稿・発表をサポートする論文翻訳サービスなどを利用し、相談するのもよいでしょう。

参考文献

ICMJE Recommendations
カレントアウェアネス・ポータル 学術雑誌は投稿論文の剽窃行為をどのようにチェックしているか? 剽窃行為発見サービス“CrossCheck”ユーザを対象にした調査
J-STAGE Similarity check(旧CrossCheck)について
ロシアで展開される研究不正行為の実情:ハゲタカジャーナルへの掲載・共著者枠の売買・外国語論文のロシア語訳による剽窃など(記事紹介)

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