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オープンアクセスの拡大により見えてきた「研究者の権利」とは

近年、論文掲載の場としての「オープンアクセス(Open Access:OA)化」が、世界中で拡大しつつあります。研究者としては、自らの研究成果をより多くの人に読んでほしい、活用してほしいと考えますから、この流れは喜ばしいことかもしれません。しかしその一方で、誰でもがアクセスできるというスタンスに対して、「研究者の権利」をどう守るかという課題も見えてきました。

「著作権の保護」につながるのか、2021年1月から発効した「PlanS」

研究者であれば一度は「PlanS」というキーワードを目にしたことがあるでしょう。

2018年9月にScience Europeは、「欧州委員会と欧州研究会議の支援を受けた11の公的助成機関が完全なオープンアクセスへの移行を加速するイニシアチブであるcOAlition Sの開始する」と発表しました。そして2021年1月より発効されたPlanSでは、「すべての出版社がオープンアクセスの明確さと透明性を提供することにより、研究者の権利を完全に尊重すべき方法」が概説されています。さらに、公的な助成金による資金提供を受けた研究の論文を公開する際には、PlanSの基準に準拠したオープンアクセスジャーナルまたはプラットフォームで公開することとしています。さらにPlanSでは、「資金提供を受けた研究論文の即時OA化」だけではなく、論文の著作権を守るための方法として、以下の点にも言及しています。

●出版物の著作権は、著者あるいはその所属機関が保持すること
●Plan Sの対象となるすべての出版物はOA下で出版され、CC BY(表示)、CC BY-SA(表示-継承)、CC0も許容し、助成の獲得者から特に正当な求めがあればCC BY-ND(表示-改変禁止)も認められる場合がある

しかしながら、世界中の助成機関や学会および出版社等が、このPlanSに準拠しているかというと、そうでもありません。現に日本国内でPlanSに加盟する側である助成機関や、PlanSへの準拠を求められる学会や出版社等は、その方針を明らかにしていません。

仮に日本が「国として」PlanSに準拠すれば、これまで以上に「OAで手に入る論文」が増えると考えられます。この点だけを考えれば、研究者としては喜ばしいことかもしれません。論文の掲載料も、原則として「資金提供者または研究機関」となっています。日本でいうならば、助成機関や学会、出版社側ということになります。しかし、日本がPlasSに準拠しないならば、こうした「掲載料」の負担がどこになるのかという問題も出てきますので、欧州からの論文投稿の数に影響があるかもしれません。

現在のところ、PlanSへの準拠を承認し、その実装に取り組んでいる組織は25機関あまりです。今後の日本の動向も、注目が集まっています。

「研究者の権利を守る」新たなる声明

2021年5月25日、欧州において、新たなる声明が公表されました。この声明に関わっているのは、欧州の科学技術大学の団体CESAER、欧州大学協会(EUA)、欧州の研究助成財団・研究実施機関が加盟するScience Europeです。共同声明では、「出版社がOAについての透明性を提供することで、研究者の権利を尊重すること」が求められています。

具体的には、研究者の権利を完全に尊重する方法として、出版者に対し、制限やエンバーゴ期間なしに査読済みの研究結果を共有することなどが示されております、特に、「著者最終稿をCC-BY等のオープンライセンスによりリポジトリへ登録することを希望する研究者には、エンバーゴ期間なしに実現できなければならない」と宣言しています。

この声明が公表された背景には、出版社側の「時代遅れのシステム」が存在します。

出版社は通常、論文の著者である研究者が、自らの研究結果に対してできることを制限する「独占的な出版契約」に署名することを要求してきました。特に一部の出版社では、不明確な慣行や、研究者の問題を複雑にし、混乱させるようなシステムが存在していました。これに深い懸念を表明するとともに、出版社に対して「制限や禁輸なしに査読済みの研究結果を共有する」といったような、研究者の権利を尊重するシステムを求めています。

世界を通してみると、研究成果の発表の場である「論文」の在り方は少しずつ変化してきています。自らの権利を守りつつ、どのような場で発表していくべきなのか、研究者にとっても大きな課題です。投稿先がどのようなスタンスにあるのか、見極める目も必要なのではないでしょうか。

参考文献

慶応義塾大学メディアセンター オープンアクセスって何?
SCIENCE EUROPE Open Access
SCIENCE EUROPE Joint Statement on Empowering Researchers in Open Access
cOAlitionS PlanS
Current Awareness Portal E2346 – 著作権とライセンスからみるオープンアクセスの現況
cOAlitionS Organisations endorsing Plan S and working jointly on its implementation
ScienceEurope All Publishers Must Provide Researchers with Clarity and Transparency on Open Access Current Awareness Portal CESAER、EUA、Science Europe、出版者にオープンアクセスについての透明性と研究者の権利の尊重を求める共同声明を発表

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