内閣府科学技術・イノベーション推進事務局「論文等のオープンアクセスについて(論点とりまとめ)」について
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局は2023年5月25日、「論文等のオープンアクセスについて(論点とりまとめ)」を公表しました。これは科学技術政策担当大臣等政務三役および総合科学技術・イノベーション会議有識者議員との会合で配布された資料であり、オープンアクセス(OA)に関する国レベルの方針をどのように策定していくかが記載されています。
OAに関する基本方針と具体的施策
「論文等のオープンアクセスについて(論点とりまとめ)」では最初に、世界的な学術出版社によって論文や研究データ等の市場支配が進んでいる現状について触れています。その背景のひとつとして、雑誌購読料や掲載公開料(APC)が研究者や大学にとって大きな負担となっていることが挙げられています。
この流れに対応するための基本方針として、G7科学技術大臣会合などを通して諸外国と連携しつつ、国家としてOAに関する方針を策定することなどが掲げられました。
具体的な施策としては、まず、NIIやJSTといった公的なプラットフォームを充実させ、グリーンOAを推進するとしています。グリーンOAとは、国や研究機関などが保有する機関リポジトリで公開されるOAのことです。論文の全文公開を一時制限するエンバーゴ機関の後に、全文公開されることもあります。2025年度の新たな公募分からは、公的資金を投入して学術論文の著者最終稿をNIIやJSTなどの公的なプラットフォームに掲載することを義務づけるとしています。また、ゴールドOAに対する具体的な施策としては、研究者や大学にとって負担の大きいAPCを支援する方針を示しています。
この背景には、出版社が講読料中心の利益モデルからAPCモデルへ移行しつつあることや、転換契約の増加といった世界的な学術出版の流れがあります。ゴールドOAのみではAPCの高騰による財政的な負担が懸念されることもあり、日本では公的プラットフォームに研究成果を掲載するグリーンOAを推進する方針ということです。国内に公的プラットフォームを有することは安全保障という観点からも重要であり、日本の国際的なプレゼンスを高めることにもつながります。
その他の具体的な施策としては、交渉体制の構築、研究者や研究コミュニティの発信力強化、国際的な連携などが挙げられています。今後の検討の在り方としては、2023年6月に統合イノベーション戦略2023が策定された後、2023年度の早い段階で国としてのOA方針を明示することとしています。
OAに向けて直面する課題とその対応策
「論文等のオープンアクセスについて(論点とりまとめ)」では、国としてOAを推進するにあたって直面する課題とその具体的な対応策についてもまとめられています。
例えば、学術情報の流通経路が紙媒体およびデジタルの出版物に依存しているために、市場支配や価格の高騰が進んでいることが課題として挙げられています。その具体的な対応策としては、出版に代わる学術コミュニケーションツールとしてプレプリントを活用したり、グリーンOAに向けた基盤整備の一環としてNII-RDC(NII研究データ基盤)の整備を継続したりするほか、研究者にとって負担が大きいAPCを支援することでゴールドOAを推進することなどが考えられます。
大学や研究機関等が個別に出版社と契約することでスケールメリットが生じず、契約が高価格化してしまうという課題に対しては、大規模研究大学による団体交渉によって価格交渉力を強化しようとしています。また、当該機関に所属する研究者とのニーズにマッチしないという課題に対しては、デジタル・U・ライブラリ(仮称)を創設し、利用頻度の低い雑誌や所属機関がカバーしていない雑誌についても閲覧できるようにすることが検討されています。
OA化に向けた日本の取り組みに期待
内閣府の第145回評価専門調査会議事次第の参考資料として添付されている「オープンアクセス(OA)に係る海外動向調査」には、主要な欧米諸国におけるOAの動向がまとめられています。一例を挙げると、アメリカでは2022年にアメリカ合衆国科学技術政策局が即座OA方針を出し、2024年末までに策定して2025年までに施行するとしています。イギリスでは2021年にOAポリシーが改訂され、即座OAが義務化されました。フランスでは、2030年までに100%OA化を目指すとしています。
このように、欧米諸国を中心に世界各国でOA化の潮流が加速しています。日本においても、研究機関レベルではなく国レベルでの積極的な取り組みが期待されます。
参考文献
内閣府科学技術・イノベーション推進事務局 — 論文等のオープンアクセスについて(論点とりまとめ)2023年5月25日 内閣府 — 評価専門調査会(第145回)議事次第 参考資料2オープンアクセスに係る海外動向調査2