Wiley社の調査報告書「ExplanAItions」およびAIツールの使用に関する新しいガイドラインについて
Wiley社は2025年2月4日、学術研究におけるAIツールの使用等について調査した報告書「ExplanAItions」を公開しました。また、この報告書を受けて、2025年3月13日には学術研究分野におけるAIツールの使用に関するガイドラインとして「Using AI tools in your writing」も公開しています。それぞれの概要を解説します。
Wiley社による調査報告書「ExplanAItions」の概要
AIツールの使用を制限する学術出版社もある一方で、世界最大級の出版社であるWiley社は、学術研究分野におけるAIツールの思慮深い使用を歓迎する旨を公表しています。Wiley社によると、著者が責任をもってAIツールを使用することで、編集基準の維持、知的財産権やその他の権利の保護、読者に対する透明性の向上が実現できるといいます。
Wiley社は、世界中の研究者約5,000人を対象にアンケートやインタビューなど複数の調査を行い、「ExplanAItions」という報告書にまとめました。学術研究におけるAIの利用や今後の影響について包括的に調査したものであり、その要点は以下の通りです。
・研究プロセスにおけるAI活用の急速な拡大が予想されている
・AIを使用した特定のケース計43件のうち、半分以上においては、人間よりもAIのほうが優れていると考える研究者が多い
・AIの導入状況は、中国が59%、ドイツが57%と高かった。その他の地域では、研究者の44%がAIを導入している
・研究者の63%が、AI使用に関するガイドラインの欠如およびトレーニング不足がAIの利用拡大の障害になっていると述べている
・研究者の約70%が、学術研究の文脈でAIツールの使用に関するガイドラインを出版社が提供することを求めている
Wiley社のAIツール使用ガイドライン「Using AI tools in your writing」
前述のExplanAItions調査において、研究者の約70%が学術研究分野におけるAI使用のガイドラインを求めていたことを受け、Wiley社は「Using AI tools in your writing」というガイドラインを策定しました。著者、編集スタッフ、AI分野の専門家などへのインタビューに基づいており、論文執筆においてAIツールを利用する際のガイドラインとして公開されています。
このガイドラインに従うことで、以下が保証されるとしています。
•責任および透明性をもってAIツールを使用することができる
•著者本人の主張と専門知識を維持することができる
•知的財産権を保護することができる
•倫理的かつ専門的な誠実さを確保できる
•Wiley社の出版基準を満たすことができる
ガイドラインの各項目の概要は以下の通りです。
Review Terms and Conditions(利用規約の確認)
……著者の権利またはWileyの権利が侵害されないよう、使用するAIツールの利用規約や使用条件、その他の条件やライセンスを確認する必要があります。
Human Oversight(人間による監視)
……著者は、すべてのコンテンツの正確性について常に責任を負います。AIツールを補助的に使用することはできますが、執筆プロセスのすべてを代替させることはできません。
Disclosure(開示)
……Wileyに論文を提出する際、著者は論文の執筆に使用したすべてのAIツールを開示する必要があります。AIツールを使用した目的、主要な議論や結論への影響の有無などを明らかにし、文書として保管する必要があります。
Rights Protection(権利保護)
……著者自身またはWiley社、その他の当事者による資料の利用を制限するようなAIツールは使用することができません。AIツールの利用規約において、所有権やデータの再利用、オプトアウトなどの条項を確認し、意図しない権利の移転を防ぐことが大切です。
Responsible and Ethical Use(責任ある倫理的な使用)
……著者は、プライバシーや機密性、コンプライアンス義務を遵守してAIツールを使用する必要があります。
Adherence to Agreements(合意事項の遵守)
……著者はWiley社との契約条件を遵守しなければなりません。著作物のオリジナル性や未発表であることなどを保証します。
このガイドラインには、著者からのよくある質問への回答も掲載されており、プロンプトの改良やAIツールの紹介、自分に合うAIツールの探し方などがわかりやすく解説されています。
Wiley社のリーダーシップに期待
Wiley社は、今後もAIツールに対する積極的なアプローチを展開するとしています。具体的には、科学的発見を加速するための共同イノベーションプログラム「Wiley AI Partnerships」や、AI倫理に関するエピソードを特集した「The Conversations」シリーズ、Wiley社のAI原則の制定などが挙げられています。学術研究分野におけるAIの展開について、Wiley社のリーダーシップに期待が寄せられています。
参考文献
Curren Awareness Portal — Wiley社、学術研究における人工知能(AI)の使用等に関する調査報告書をリリース
WILEY — Press Release Details — Wiley Identifies Emerging AI Research Applications in New Study, Announces Forthcoming Guidelines for Authors
Curren Awareness Portal — Wiley社、AIツールを利用した執筆についてのガイドラインを公開
WILEY — Press Release Details — Wiley Releases AI Guidelines for Authors
WILEY — Using AI tools in your writing