ピアレビュー・ウィーク2023に寄せて「研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦」
毎年9月に行われているピアレビュー・ウィークは、研究者や学術出版社、学会や研究機関などが一堂に会する学術イベントです。「どのようなかたちにおいても、優れた査読は学術コミュニケーションにとって不可欠である」というのが、ピアレビュー・ウィークによって共有されるメッセージです。
シュプリンガー・ネイチャー社の研究公正ディレクターであるChris Graf氏は、2023年9月25~29日に開催されたピアレビュー・ウィークにおいて、「研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦」という記事を寄せています。その概要をご紹介します。
「研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦」
現在の学術界においては、研究成果の容赦ない追求や競争の激化(ハイパーコンペティション)が顕著であり、論文の著者だけでなく査読者に対してもプレッシャーが生じています。1年間に出版される論文の数は毎年増加している一方で、査読者の数は減少しています。シュプリンガー・ネイチャー社では、査読付き論文の出版をサポートするのはもちろん、論文を迅速に公開したり、周知したりするためのシステムに投資しています。
そういった現状を踏まえ、Graf氏は研究者のプレッシャーを軽減するための3つの挑戦として、次の項目を掲げています。
1、SNAPP(Springer Nature Article Processing Platform)等によるデジタルエクスペリエンスの改善
シュプリンガー・ネイチャー社は、著者のエクスペリエンスと出版ワークフローをサポートするためのさまざまな技術を開発しています。SNAPP(Springer Nature Article Processing Platform)もそのひとつです。
SNAPPは、論文の投稿から査読、受理、そして出版に至るまでのエクスペリエンスを合理化するためのプラットフォームです。2022年度の年次進捗状況報告書によると、これまでに3万3千人を超える編集者がSNAPPを利用し、13万5千件を超える論文を処理しました。
著者、編集者、査読者それぞれにとってSNAPPがどのように役立つか、メリットをご紹介します。
・論文の著者におけるメリット
……あらゆる形式の原稿を簡単にアップロードできる。進捗状況も随時確認可能。原稿から事前入力フォームにデータを抽出するので、時間の節約にもなる。
・編集者におけるメリット
……ダッシュボードからは、提出された論文の進行状況を確認できる。統合された査読者ファインダー、自動リマインダーなどさまざまな機能がある。
・査読者におけるメリット
……カレンダーの統合により、重要なタスクや査読期限の通知が可能。査読登録サービス「Publons」とも連携しており、査読の効率化に役立つ。
2、In Reviewの活用により、査読期間中の情報共有や論文の早期引用が可能に
「In Review」は、シュプリンガー・ネイチャー社が投資し、Research Square社が2018年に設立したプレプリントサービスです。著者が、In Reviewを利用しているジャーナルに論文を投稿すると、その論文は即時にプレプリントとして利用できるようになります。また、査読の進捗状況をリアルタイムで反映し、更新することも可能なので、迅速に情報共有できるだけでなく、論文が早期に引用されやすくなる、共同研究の機会が増えるといったメリットもあります。In Reviewは無料で提供されており、シュプリンガー・ネイチャー社が刊行する1,000誌以上ものジャーナルが、In Reviewを利用しています。
3、Springer Nature Reviewer Finderによる査読者候補の多様性の向上
シュプリンガー・ネイチャー社では、論文の分野と関連性の高い査読者を迅速かつ効率よく見つけるのに役立つ「Springer Nature Reviewer Finder」も提供しています。この査読者検索ツールに原稿のタイトル、アブストラクト、著者名、キーワードなどを入力すると、査読者候補のリストが作成されます。検索結果を保存して役立てることもできますし、著者名や共著者名、所属機関に関連する利益相反があればフラグが表示されます。
さらに、各出版社において、査読に取りかかる前に不適切な論文を選別して排除するツールの開発も進められています。査読者と編集者の負担軽減や、健全性の向上が期待できます。
査読に関するイノベーションの発展に期待
ご紹介した3つのツールをはじめ、学術出版社と研究者の協力関係や研究の品質を維持するために、さまざまなイノベーションが活用されてきました。こういった取り組みは、今後さらに加速していくことでしょう。
Graf氏は記事の最後に、査読者が母国語で査読できるようにする方法の可能性についても触れています。今後そういった手法が確立されれば、査読者の負担軽減や多様性の向上にもつながるといえます。
参考文献
Springer Nature — 【お知らせ】 Peer Review Week 2023開催 – Springboardブログ「研究出版社が査読者のプレッシャーを将来的に軽減するための3つの挑戦」を公開
Springer Nature — Snapp — Springer Nature’s next-generation peer review system
Springer Nature — In Review — Journal-integrated preprint sharing from Springer Nature and Research Square
Springer Nature — Reviewer Finder