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論文審査での不当なバイアスの現状を明らかにするために

査読制の学術雑誌に論文を掲載するには、その雑誌の編集者及び査読員らによる、公正かつ厳正な審査を通過しなければなりません。しかしながら、論文の審査というものが果たして公正に行われてきたのかどうかに関しては、昔から物議の対象になっています。そこで、今回は学術論文などの審査において、審査する側が、投稿してきた著者らに対して掛ける不当なバイアスをテーマに、今後の課題などを含めてご紹介します。

審査員側はどのような点で不当なバイアスを掛けてくるのか?

編集者も含め、論文審査員側が公正中立な視点で論文審査を進めるべきである、ということについては言うまでもないことですが、実際には審査の際に色々なタイプの偏見を持って、明らかに強いバイアスを掛けた審査を行う審査員が数多くいるといいます。彼らがどのような事に関してバイアスを掛けてくるかというと、論文投稿者らの国籍、所属研究機関の地位などの他、性別や人種などといったことにまで差別を掛けてくる、極端な審査員もいるほどです。審査時のこのようなバイアスが昔から横行していたため、論文投稿者らからの激しい反感を招いただけでなく、学問そのものが、公正中立性を欠いた不透明な物に変貌してしまうことが危惧されてきました。

審査でのバイアスを減らすための取り組み

従来は、論文審査の際は、論文を投稿した著者らの名前・所属などを、査読員側に公表した形で審査が行われるのが一般的でした。原則として、著者らに対し、査読員の名前は明かさない形になっていました。このやり方は、シングルブラインド方式と呼ばれており、昔から著者らに対する査読員側のバイアスが掛かりやすいという事で、問題視されていました。

近年に入ってからは、従来とは異なり、査読員側に対して著者らの個人情報を見せない形で審査を行わせる、ダブルブラインド方式という方法が取り入れられるようになってきました。ダブルブラインド方式であれば、論文投稿者と査読員双方が互いに名前や所属を知らない状態で審査が行われるため、シングルブラインド方式に比べて審査にバイアスが掛かりにくくなることが期待されています。

論文審査時のバイアスは本当に改善されたといえるのか?

では、ダブルブラインド方式の取り入れによって、論文投稿者らに対する審査時のバイアスが、本当に減少したと言えるのでしょうか?実は、現在のデータだけではこの問題に対する明確な答えが出すのが非常に困難なのです。というのは、学術雑誌にすでに掲載されている論文を調べただけでは、どうしても不十分な点が出てしまうからです。その不十分な点というのは、「誰が投稿した論文がリジェクトされているのかまでは調べられない」という点です。

学術雑誌に掲載されていない、リジェクトされてしまった論文の情報については、例えその学術雑誌の編集部などに問い合わせたとしても、公表はしてもらえません。しかしながら、この疑問に対して結論を出したいのなら、当然のことながら、リジェクトされた投稿者達に対して、審査員側のバイアスが掛かっていないかどうかまで調べることが必要になると思います。極端な例えになるかもしれませんが、高い研究業績をあげている大学の教授などをリーダーとする研究チームの論文ばかりが優先的に掲載され、それ以外の研究機関所属の投稿者の論文原稿は、一方的にリジェクトされてしまっていないか?などといった疑問について検証するには、やはり掲載された論文だけでなく、リジェクトされた投稿者に関する情報も必要なのです。

近いうちに、論文投稿経験者などを対象に幅広く世論調査などを行って、論文をアクセプトされた投稿者とリジェクトされた投稿者双方に対して、論文審査員側のバイアスが掛かっていないかどうかについて詳細に検証してみることが必要だと考えらます。このような検証を、ダブルブラインド方式の審査を行っている雑誌と、シングルブラインド方式の審査を続けている雑誌両方について行い、全体的な傾向を把握することが重要になってくるのではないでしょうか。

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