Science News

新型コロナウイルスの学術出版への影響

依然猛威を振るい続ける新型コロナウイルスですが、アメリカ ジョンズ・ホプキンス大学の集計によると、2021年1月現在 の世界全体の新型コロナウイルス感染者数累計は、1億人を突破、 死亡者数も世界全体で200万人を超え、 収束の時はまだ遠いと思わざるを得ない状況となっています。

大きな流行の波が起こるたび、ロックダウン(都市封鎖)や緊急事態宣言発出などによって、人々は外出を始めとした行動を制限される生活を余儀なくされ、企業や教育機関、研究機関も以前と同じような活動ができない期間が長くなり、大きな影響を受けています。

そうした中、新型コロナウイルス感染症についての研究も含め、この感染拡大の影響について多くの調査・分析が行われています。

日本の機関による学術研究動向調査分析

日本では、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)による「COVID-19 / SARS-CoV-2 関連のプレプリントを用いた研究動向の試行的分析」が公開され、近年広がりをみせているプレプリントサーバ(Preprint Server、以下PPS)の文献リストから、新型コロナウイルス感染症に関する研究動向が明らかになっています。

報告書は2020年6月に公開、同10月に補遺がまとめられ、分析対象としたデータは、主軸とする分野が異なる6つのPPSから収集をおこなった計16,066件が確認されています。それによると、医療系PPSのみならず、情報・物理系や人文社会系PPSでも新型コロナウイルス感染症に関する投稿がみられ、それぞれの専門性を活かした研究が行われていることから、新型コロナウイルス感染症研究はメタサイエンスの地位をある程度確立していることが読み取れるとしています。加えて、論文の時系列推移は、疫学調査のステップと合致する動向があることが示されています。

国・地域別の分析によると、バランスよく各PPSに投稿されている国や地域がある一方で、特定のPPSに投稿数の偏りがみられる国や地域があること、それらは論文のテーマに関連していることも読み取れるようです。例えば日本は国別比較、スウェーデンでは感染拡大や感染機構、中国では患者病状に関係する投稿が多くなっています。また、アメリカやイギリスの投稿数が時間の経過とともに増えてきており、当初投稿数の多かった中国を抜いていると分析しています。

新型コロナウイルス感染症の影響はどのようなことに現れているのか

研究成果公開と学術出版の影響

それでは研究成果の公開や学術出版は、このパンデミックによってどのような影響を受けたのでしょうか。

2020年12月16日付でNatureオンライン版に公開された分析解説記事 では、同誌が収集したデータを分析した結果、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは、科学者による研究の方法とその内容に変化をもたらしたとしています。

2020年に発表された新型コロナウイルス感染症に関連する論文は、Dimensions(Digital Science社によるプラットフォーム)のデータベースによると全体の約4%を超え、またPubMed(医学論文データベース)では約6%に関連論文が索引付けられたとしています。また、PubMedに収録された論文はアメリカのAI技術関連企業による分析がなされ、論文テーマの推移も示されています。2020年5月ごろまで多く扱われていたテーマは感染拡大や入院患者の予後、検査などでしたが、最近ではメンタルヘルスへの関心が高まっているといいます。

こうした論文の発表の場はとして活用されていたのが、プレプリントであったことも明らかになっています。2020年の全プレプリントの約10%がコロナウイルス感染症に関連する論文で、それらの約半数が3つのPPSに集中していました。また、ジャーナルによってはプレプリントの約25%がジャーナル掲載となり、掲載論文全体の2/3程度が新型コロナウイルス感染症に関連した内容であったことが報告されています。また、査読システムがより機能的となり、新型コロナウイルス感染症に関連した論文がこれまでよりも迅速に掲載されるようになり、それによってより多くの関連論文が出版されるに至っています。

但し、これによって他のテーマに関する論文の出版は遅れてしまったこともまた、事実のようです。

研究者たちの意識や経験の影響

2020年12月には、研究者たちがパンデミックによって研究を成し遂げるために受けた影響について、シュプリンガー・ネイチャーは、Digital Scienceとまとめたオープンデータの現状リポート「State of Open Data 2020」で言及しています。影響の程度として「非常に」「かなり」と回答している研究者が全体の32%、その分野として多いものから順に、化学、生物学、医学、材料科学、人文社会学としています。また助成金の利用についても、既に利用しているか、再度利用を考えているとの回答が43%ありました。

大きな影響を受けているなかで、前向きな報告もなされています。それは、これまで以上にオープンデータを活用するようになっているということと、共同研究の可能性です。ロックダウン中に他の研究室のオープンデータの活用はもとより、自らのオープンデータの活用の可能性も約64%あるとの回答がありました。これは、研究室に足を運ぶことができない故に、積極的にオープンデータにアクセスしていることを示すと考えられています。共同研究については、研究者の1/3以上が、実施可能性ありと回答しています。新型コロナウイルス感染症の影響が大きい国においてはさらにその割合が多く、ブラジルやインドでは約半数が、共同研究の可能性に期待を寄せています。

たとえパンデミックではなくても、限られたリソースで継続的に研究を進めていく上で、大変重要な変化が起こりつつあり、今後の学術研究に、さらに大きな影響を与えるかもしれません。

参考文献

公益財団法人ニッポンドットコム運営オープンサイトnippon.com 世界の感染者1億人突破 : 全体の25%が米国に集中【新型コロナの国別感染者数】1月27日朝更新
公公益財団法人ニッポンドットコム運営オープンサイトnippon.com 世界の感染死者が200万人を突破(1月16日)
Current Awareness Portal 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)、報告書「COVID-19 / SARS-CoV-2 関連のプレプリントを用いた研究動向の試行的分析」を公開
科学技術・学術政策研究所 COVID-19 / SARS-CoV-2 関連のプレプリントを用いた研究動向の試行的分析 報告書全文 補遺
Nature, 2020/12/16 How a torrent of COVID science changed research publishing — in seven charts
Digital Science State of Open Data 2020

  • 英文校正
  • 英訳
  • 和訳
※価格は税抜き表記になります